第6章 The Lady is Cinderella.
さすがのミスタ・クラウスも、濡れ鼠のまま抱く趣味はないのだろう。
綺麗に身を清めた後で、ということなのかしら。
私も、そういう点に関しては初心な人間ではない。
求められれば、応じる覚悟は出来ている。
2度も命を助けていただいた恩人相手なら、多少のことは受け入れられる。
覚悟を決めた私は、念入りに体を洗った。
備え付けの石鹸も、シャンプーも、どれも甘い花の香りがした。
洗い終えた後は自分の体からその甘い花の香りが漂う。
これならばミスタ・クラウスに不快な思いはさせないだろう。
入浴を済ませ、用意してあったバスローブをまとって、ゆっくりと浴室から出た。
ミスタ・クラウスの姿を探す。
彼は、リビングのような広い部屋のソファにゆったりと腰かけていた。
私はゆっくりと彼のそばに近づいて、目の前に立ってお辞儀をした。
「ミスタ・クラウス。改めて、私の命を助けてくださりありがとうございました。そしてこのような場所に連れて来て下さり、感謝してもしきれません」
「ミス・アメリア。そんなに畏まらないでくれたまえ。これは君に対しての、私の感謝の気持ちのひとつだ。そこまで謙遜されることはない」
「いいえ、滅相もございません。……ミスタ・クラウス」
するり、と。
身にまとっていたバスローブを床に落とす。
露になった私の体に、ミスタ・クラウスの目が釘付けになった。
「どうぞ、お好きになさってください」
微動だにしないミスタ・クラウスに近づいて、その手を取る。
ごつごつとした大きな手を、ゆっくりと乳房に誘導する──
「っ、やめたまえ」
突然、ミスタ・クラウスは手を振り払った。
その勢いのまま、床に落ちたバスローブを拾い上げ、私の体を隠すように羽織らせた。
「私は断じて、そんなつもりで君をここに連れて来たのではない」
ミスタ・クラウスの目が、険しくなる。
もしかして、怒っていらっしゃる?
「私の言葉が足りなかっただろうか。君にそんな事をさせるつもりは、私には毛頭ない。……ミス・アメリア。年頃の女性がそう簡単に男に肌を見せてはいけない」
ご自分が、簡単に女を抱くような人間だと思われたのが心外であったのか、ミスタ・クラウスの声音には静かな怒りが含まれているようだった。