第6章 The Lady is Cinderella.
「どうぞ、お入りください」
案内された部屋に、おそるおそる足を踏みいれる。
部屋に入ると広い廊下があり、突き当りには大きな絵画が飾られている。美しい花々が生けられた花瓶がコンソールテーブルの上に置かれていて、それだけで立派な玄関のようだった。
両側の壁には、蝋燭を模したお洒落な照明がかかっている。
「アメリア様、浴室はこちらでございます」
ホテルの方に促されるまま、浴室に入る。
「時間は気にしなくていい。ゆっくりと体を温めてくれたまえ」
ミスタ・クラウスの言葉に、私は深く頭を下げた。
「お気遣い、ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
全く気が引けないわけではなかった。
けれど、ここまで来てミスタ・クラウスのご厚意を無下にするわけにもいかない。
入らない、と言えば無理にでも入らされるだろうし。
「こちらに入浴に必要なものをご用意しておりますので、どうぞお使いくださいませ。何かありましたら、こちらでフロントまでご連絡ください。すぐにお伺いいたします」
広い脱衣所には、小さな電話が置かれていた。
この電話を取るだけでフロントに繋がるらしい。
かけるつもりは毛頭ないけれど、こんな電話ひとつで人を動かせてしまうなんて。
今までの私の生活からは全く考えられない世界だ。
静かに脱衣所の扉を閉めてホテルの方が出て行かれたので、私は広い浴室に1人ぽつんと取り残された。
洗面所の鏡に映る私は、文字通り濡れ鼠の姿をしている。
またブルブルと寒気が走った。
とにかく湯船に浸かって、体を温めよう。
細かいことは、後から考えることにして、ひとまず湯船に浸かることにした。
大理石の床に、キラキラとしたタイルが貼られた浴槽に、見てるだけでも気分が高揚する。
自分が本当にお姫様にでもなったような気がして、柄にもなくはしゃいでしまった。
湯船に浸かると、冷えていた体がじんわりと温まっていく。
「……やっぱり、何かあるのよね」
体が温まるにつれ、脳は冷静に事態を予測し始めていた。
こんな豪華なホテルに、わざわざ私を連れてきてくださったミスタ・クラウス。
お互いよく知りもしない相手だというのに、ここまで世話を焼いてくださるなんて、やはり何か裏があるとしか思えない。
このままタダでは、帰して下さらないだろう。