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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第1章 序章



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「また祈っているのか。…何度も言ったろ、神様なんていないよ」


少年が声をかけると、十字架の前で両手を組んで祈りを捧げていた少女が振り返った。

振り返った際にサラリと流れるように揺れる黒髪が、少女の白い肌によく映えている。


「あら、私はそうは思わないわ」

「何故」

「だって牧師さまが毎日仰っているでしょう。神は私達と共にあられる、って」

「バカバカしい。もし万が一神がいたとしても、あんな外道が仕えている時点でロクな神じゃないだろ」

「兄さん、駄目よ。……そんな言葉を口にしては。牧師さまがいなければ私達はそこらの街角で死んでいたかもしれないんだから」


大真面目な顔でそんなことを口にした妹に、兄の目はさらに呆れた色を増していた。


「ハッ、そりゃ死んだ方がマシだったな」


瞬間、少女の目が陰っていく。

少年には、少女が言外に『こんな状況に身を置くことになった原因』を少年に問うているように感じた。


「いや……すまない、アメリア。死んだ方がマシな目に、俺が合わせちまってんだよな……」

「私は大丈夫よ。…慣れたらどうってことない。体なんか、いくらでもくれてやるわ……」

「…魂、だけは」

「そう、魂だけは、私達のものよ」


張り裂けそうになる心と体を現世に繋ぎ止めるように、少年と少女はその文言を繰り返し口にする。


「きっと、神様は見ていて下さるわ」

「…もうやめろよ、神の話は」


不確かなものにすがっても、状況は好転しない。
それは兄だけでなく、妹のアメリアも分かっているはずだ。

けれど彼女の魂は、大人達にいくら汚されようと、純粋で健気な無垢な少女のままだった。


「──神は、乗り越えられる試練しか与えない……そして試練と共に出口をも作ってくださるであろう」


聖書の一節を少女が口にする。
ここに来てもう幾度その一節を耳にしただろう。


「……そうであれば、どんなにいいか」



いつか天に祈りが届くことがあるのだろうか。
少年は懐疑を抱いたまま、聖堂の十字架を見上げた。



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