第1章 序章
こう言われては、少年は反抗出来なかった。
ただ、妹のために。
少年の行動原理のすべては、唯一の家族である妹に起因していた。
それを十分承知の上で、牧師は発言したのだ。
ゆっくりと伏せられていく少年の瞳を見て、またにたりと牧師は笑った。
──屈するものか。体なんかいくらでもくれてやる。
魂だけは。魂だけは永遠に僕らのものだ──
固く冷たい教会の床の上で牧師に組み敷かれながら、少年は牧師の背後に鎮座する十字架をじっと見つめた。
──神なんてくそくらえだ。
この世に神もなにも存在しない。
あるのはただ、欲にまみれた者どもと、それにたから
れる弱者だけだ──
気色悪いねっとりとした牧師の舌が、少年の体の上を這いずり回る。
気持ちなど欠片もないはずなのに、少年の口からは甘美なる囁きが漏れ出ていた。
行為に慣らされた体は、条件反射のようにもえあがり、少年の体を熱くさせた。
牧師のものが少年の体を貫いた時、少年の耳にどこからか清らかな歌声が届いた。
それはまるで神からの啓示のようで、少年は静かに目を閉じて歌声に耳を傾けた。
──讃美歌だ。
515番『十字架の血に』──
遠くから聞こえる妹の歌声を真似るように、少年の口は音もなくその歌詞をなぞったのだった。