第6章 The Lady is Cinderella.
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車は、寂れた裏路地から超高層ビルが立ち並ぶあたりまで走り、見上げたら首が取れてしまいそうなくらいの建物の前でスピードを落とし始めた。
(もしかしてここに入るつもりなのかしら?!)
外観もそうだけれど、ホテルの入り口に立っている人(きっとホテルで働いている人)一人一人の恰好からして、煌びやかで私がおいそれと足を踏み入れていい場所でないと言外に言われているような気がした。
ムリでしょう、この私のボロボロの姿でここに立ち入るなんて。
ミスタ・クラウス。
貴方は一体何を考えていらっしゃるの。
「坊ちゃま、裏に車を回します」
「ああ頼む」
ホテルの表玄関がゆっくり遠ざかっていく。
車は少しだけ走り、ギルベルトさんの仰った“裏”について車は停まった。
裏、とは。
裏口ということだろうか。
それはそうよね。
こんなボロボロの汚れた子供があんな煌びやかな入り口から堂々と入れるわけがない。
裏からこっそり入って、こっそり出る。
なんとも私にお似合いだ。
と、少し自虐気味に思っていたのだけれど。
「お待ちしておりました。アメリア様、クラウス様」
車から降りるとすぐに出迎えの人がやってきて、恭しく私達に頭を下げられた。
決して勘違いはしていない。
これはミスタ・クラウスに向けてのお辞儀だと、分かっている。
だけどほんのちょっぴり、お姫様になったような気分がして、嬉しかった。
「アメリア様、どうぞこちらをお召しくださいませ」
言って、手渡されたのは暖かそうなガウン。
少し触れただけでもその素材の良さが分かる。
こんな高級そうなものを、軽々しく羽織ってバチがあたりはしないだろうか。
チラ、とミスタ・クラウスを見やると、彼はゆっくり頷いて「どうぞ」と言うように私に手のひらを向けた。
観念した私は、素直にガウンを受け取って、羽織ることにした。
お礼を言うと、ホテルの方はにっこりと優雅な笑みを浮かべた。
人に接するお仕事だから浮かべた笑顔かもしれないけれど、嫌な気分はしなかった。
案内されるがままに着いていくと、私達は他の誰にも会わないまま部屋まで到着した。
ずぶ濡れて薄汚れた姿を他の人に見られなかったのにはホッとした。