第6章 The Lady is Cinderella.
「かしこまりました、坊っちゃま」
ギルベルト、と呼ばれた運転席の男性が答える。
坊っちゃま。
こんなに大きな体の威圧感のある男性に対して、ミスタ・ギルベルトの呼び方は少々ミスマッチな気もするけれど。
きっとミスタ・クラウスが子供の頃から一緒に過ごしていらしたのだろう。
「…クラウスです。ええ、部屋の手配を頼みます。はい、15分後に。よろしくお願いします」
ミスタ・クラウスはどこかに電話をかけていた。
部屋の手配? どういう事かしら。
今から私は、いったいどこに連れて行かれるというの?
「あの、ミスタ・クラウス。ひとつ、質問してもよろしいでしょうか?」
「ええ。何でしょう」
「これから一体どこへ向かわれるのでしょうか」
「ホテルです」
「ホテ……」
ブルブルっと、体が震えた。
それを見て、ミスタ・クラウスはためらいがちに私の体をさすってきた。
そっと触れられた手はとても温かかった。
私の体が冷えているから余計にそう感じたのだろう。
分からない。
この手は、純粋に私の体を心配してくれているのか。
それとも、やはり何か邪な思いが隠されているのか。
……だけど、ミスタ・クラウスなら。
公爵様であられるなら。
何もこんな薄汚れた、どこの者とも知れない子供なんかわざわざベッドの相手に選ばずとも、他に引く手あまたのはず。
そう思う反面、教会に来ていたお客の中にはそれなりの地位の人物もいたことを思い出し、私はミスタ・クラウスの真意についてぐるぐると考えこみ始めた。
「唇が真っ青ですし、お身体もずいぶんと冷え切っていらっしゃる。私の独断ですが、ご自宅に戻られる前に一度体を温められた方が良いと思いまして。勝手ながら部屋を手配しました」
私が、普通の女の子だったら。
普通の家に育った子供だったら。
おとぎ話みたいな、キラキラしたこのなんとも幸運な出来事に、諸手をあげて喜んでいただろう。
だけど、私は『普通』じゃない。
ミスタ・クラウスには何か裏の真意があるのではないかと、疑わずにはいられない。
お礼も言わず押し黙ってしまった私に対しても、彼は変わらず優しく体をさすってくださっていた。