第6章 The Lady is Cinderella.
「…しかし、貴方の服の弁償もさせていただかねばなりませんし。お時間があるのであれば、この後ご一緒願えないだろうか。何よりそのままでは風邪を」
「弁償なんてとんでもありません。私が勝手にしたことですし」
「だが、それでは私の気持ちがおさまらない」
「ですが……」
ポタポタと、ミスタ・ラインヘルツの袖から水が滴りはじめた。
私が雨に濡れないようにと傘を差しだしているものだから、自分が濡れてしまっている。
けれどミスタ・ラインヘルツはその事を一向に気にしていないようで、かたくなに拒否して譲らない私の目を、ただじっと見つめていた。
「そのような姿のまま、このあたりを歩かれるのは賢明な判断とは言えません。どうかせめて、安全な場所まで送らせていただきたい。ラインヘルツ家の者として、このまま貴方を放っておくことは出来ない」
「……」
何が、この方をそこまでさせるのだろう。
頑固なまでに私を車に乗せようとする姿勢に、少しだけ、変な目的で私を連れて行こうとしているのではないかと、疑ったけれど。
前髪に隠れた彼の小さな瞳は、真っすぐに私の目を見つめていて、そこには一点の曇りもなかった。
邪な考えを持っているようには見えない。
では本当に、ただ私のことを気遣ってくださっているのだろうか?
対価もなく、人にここまで善意を尽くせるものなのだろうか?
「…申し訳ない、レディ。このままでは埒が明かないので少し失礼する」
言って、ミスタ・ラインヘルツは何を思ったのか、ふいに私に近づいた。
そしてあっという間に私を抱きかかえて、車まで歩き出してしまった。
「あ、あの?!」
「すまない、あまり暴れないでくれ給え」
「っ、申し訳ありません」
強引に連れて行かれそうになっているというのに、なぜか素直に謝ってしまった。
決して私を従えようとかそういうものは含まれていなかったけれど、ミスタ・ラインヘルツの声は静かだが厳かで、彼の言う事には従わねばならないような気になった。
「…私こそすまない。力づくで連れて行くなど紳士道にもとる行いだと理解しているが……こうでもしないと君は首を縦に振ることはなさそうだったのでな」
ミスタ・ラインヘルツと目が合った。
大きな白目の中に、ぽつんとエメラルドグリーンの目が光っている。