第6章 The Lady is Cinderella.
今となっては、もうどうでもよい事だけれど。
窓に映った私の目は、もう半分死んだような目をしている。
私が生きている意味など何一つないような気がして、このままどこか人目のつかないところで静かに死を待とうか、そんなことを思った。
バタン、と音がした。
窓に映った風景の中で、一台の車から人が降りる。
そしてその車から出てきた人物は、大きな傘で顔を隠したままこちらに近づいてきていた。
顔は見えなかったけれど、その服装には見覚えがある。
(ミスタ・ラインヘルツ──?!)
驚いて振り返ると、そこには確かに私を見下ろすミスタ・ラインヘルツの姿があった。
「レディ、こんな雨の中何をしておいでですか」
私を一滴の雨粒にも濡らすまいと、大きな傘が差し出された。
頭から足の先までずぶ濡れの私を、ミスタ・ラインヘルツは訝しげに見ている。
「あ……その……」
なんと、説明したものか。
言葉につまる私に、ミスタ・ラインヘルツは少しだけ首を傾げた。
「そのままでは風邪を召されてしまいます。よろしければ車にお乗りください。ご自宅までお送りいたしましょう」
「えっ、いえ、大丈夫です!」
自宅だなんて、言われても。
私には行く当てがない。
「ご遠慮なさらず。さぁ、どうぞ」
「いえ、本当に、お気持ちだけで結構です」
「しかし……お見受けしたところ先ほどお会いした時より、その……」
ミスタ・ラインヘルツの目線が上から下へと移動する。
つられて自分の姿を再確認する。
突き飛ばされた時に、ずいぶんと服は汚れてしまったし、すりむいたところから滲んだ血もついてしまっていたから、ミスタ・ラインヘルツが驚くのも無理はない姿だった。
「転んでしまったんです。水たまりに足を取られてしまって」
「怪我をされているではありませんか。車に救急箱を積んであります。よろしければ手当てを」
「いえ、本当に! 大丈夫ですから」
何故、この方は。
ここまで頑なに私を車に乗せようとなさるのだろう。
普通、2度だけ会った、ほぼ初対面のお互いのことをよく知らない間柄で、こんなに世話を焼こうとするものかしら。
この紳士の思惑が、何か別にあるような気がして、ならない。