第6章 The Lady is Cinderella.
「そんなとこに突っ立って、物欲しそうに見られちゃ、お客がゆっくり食事出来ねぇだろうが。うちは慈善活動なんてしちゃいねぇし、さっさとどっか行ってくれ!」
ドン、と男性に突き飛ばされた拍子に、転んでしまった。
水たまりに顔から突っ込んでしまい、酷い恰好だったのがさらに酷くなってしまった。
擦りむいた手のひらと腕に、うっすらと血がにじむ。
その場にいられなくなった私は、またあてもなくトボトボと歩きだした。
雨は止みそうにない。
フラフラと歩きながら、これからのことを考えた。
私には、何もない。
お金も、力も。
神に祈るしか、出来ることはない。
教会にいたころとちっとも変わらない無力な自分が嫌になる。
ふと、窓に映った自分の姿に目をやった。
シャツの首元が雨に濡れて、うっすらと透け、あの忌まわしい刺青がかすかだが姿を見せている。
また、体を売るしか、ないというの……?
食事にありつくには、体を休める場所を手に入れるには……。
『対価を支払わねば、報酬は受け取れないものなのだよ。世の中とはそういうものだ』
亡き牧師様の言葉が耳元で蘇る。
──教会で、飢えて苦しむ子供に、牧師様は静かな声で仰った。
『ただ食べて排泄するだけの肉塊に、ただのパンひとつさえ渡すことは出来ない。寝床があるだけ、君らは恵まれているのだ。…食事を必要とするのなら、それなりに対価を支払わねばならないのだよ』
教会では、食事をもらうには、必ず客を取らねばならなかった。
お客の取れなかったものは、食事にありつけなかった。
その代わり、客をとればとるほど、食事の内容はより良いものになった。
だから、私はたくさんの客を相手にした。
それは他の、客のつかない子供達のために、食事をわけてやるためだった。
兄さんは他人の為に、そこまでする必要はないって再三言っていたけれど、私は同じ境遇に置かれた他の子達が飢えてひもじい思いをしている姿を黙ってみていることは出来なかった。
牧師様は、客を取れなかった子供に私が食事を分け与えることを、特に咎めはしなかった。
あの人にとっては、私が勝手に精を出して客を取る方が、都合が良かったのかもしれない。