第1章 序章
***********
「また来る」
そう牧師に告げると、訪問者の男は足早に教会から出て行った。
男から受け取った札束を握りしめ、牧師は去って行く男の後ろ姿に深々と頭を下げた。
札束を懐にしまいこんで自室に戻ろうと牧師がドアに背を向けると、眼前に少年が立っていた。
少年はしばし無言のまま、牧師の目をじっと見つめた。
もの言いたげなその目に、牧師は冷ややかな目を向ける。
牧師は少年の存在を無視するかのように、少年の横を素通りしようとした。
「お待ちください」
少年が通り過ぎようとする牧師の腕をつかむと、すぐさま牧師は少年の頬を平手打ちにした。
頬の痛みに顔をしかめつつも、少年は牧師の腕を離そうとはしなかった。
「無礼を承知で申し上げます。妹はすでに今日10人以上客をとっています。1日にとる客は最高7人までとのお約束のはずでは?」
「基本はな。だが515番は人気が群を抜いて高い。多少客が多くなるのは仕方なかろう。それにあのお客は上客だ。見てみろ、この札束を」
言って牧師は分厚い札束を少年の眼前で揺らす。
「他のヤツらの稼ぎ全部合わせた5倍の金だぞ? 断る理由がない」
「しかし、それではあまりにも負担が大きすぎます! どうかもう少し配慮願えませんか」
「うるさい! ならばお前が同額稼いでみろ! 図体ばかりデカクなりやがって。あの娘がいなければお前なぞ拾わなかったものを」
牧師に再び平手打ちされ、少年の口からは血が滲み始めていた。
「だったらなおのこと! 妹の体の事をお考え下さい! このままではその上客すらとれなくなってしまいます」
「……ふん。お前はほんとうに口だけはよく回る」
牧師は少年の両頬を片手でぐっと掴んだ。
爪が食い込むほどに牧師が力を入れると、少年の顔が苦痛に歪む。
その表情を見て、牧師は何か思いついたような顔をした。
「そうだな。今宵の相手はお前にしよう」
にたりと下卑た笑みを浮かべる牧師に、少年の瞳には恐怖の色が浮かんだ。
「私を満足させてくれれば、515番のことも考えてやらんでもない」