第27章 運命の糸先
吐きそう。今すぐにでも噛み千切ってやりたい。
けれどこれ以上抵抗しようものなら、どうなるか予想は簡単につく。
悲しいことに、体は動きを覚えていた。頭を押さえつけられたまま咥えこんだものを音をたててしゃぶる。
この男を留め置くためには時間をかけなければいけないのに、私の心は『はやく終わって』と叫んでいた。
どのくらい咥えさせられていただろう。その行為に飽きたのか、突然口内から抜け出ていった。
「ふむ……聞いていたほどでは……いや、まだこちらを試していなかったな」
今度は足を足を広げられそうになる。体は正直だ。
ここで潔く彼を受け入れなければならないと頭では思っているのに、私の両足は強力な磁石でくっついたみたいに離れなかった。
そんな抵抗をしても、意味がないことは分かっているはずなのに。また鞭で打たれないとも限らない。
「君は、自分の立場をわきまえていないようだ。おい、手伝え」
壁際に突っ立っていた男達がベッドに近付く。思いきり足首を掴まれ、足を広げさせられた。そしてそのまま何か鉄の錠のようなものをかけられ固定されてしまった。
足を閉じようにも、出来ない。
同じように手首も拘束されてしまった。
外そうともがいてもやかましく金属の擦れる音がするだけだ。
「ガッカリだよ、君には。極上の体験を味わえると聞いていたのに……よほど緊張しているとみえる。──それともあれか? 心に決めた男でも出来たというのか?」
ベイリーの言葉に、クラウスさんの顔が浮かんだ。
優しい声で私の名を呼ぶ彼に、私はどれだけ救われただろう。
こんな状況でも、クラウスさんのことを思うと胸の奥がきゅうっと締め付けられる。
「……まさかあの男か? クラウス・フォン・ラインヘルツ」
私の顔を覗き込んで、ベイリーは高笑いし始めた。
「いや、とんだお笑い草だな! お前があの男の愛を勝ち取ることなど出来やしないよ! あの男がどんな男か知らないわけではあるまい。奴が君のような者を相手にするものかね。逆立ちしたって叶う訳ない──いやしかし、そうか。叶わない願いにしがみつきたくもなるか、君の立場なら」
そんなこと、言われなくたって分かっている。
私の気持ちがあの人に届くことなどないと、もう十分身をもって経験している。
それを他人に、ましてやこの男に指摘されるのは非常に腹立たしい。