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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第27章 運命の糸先


「得心がいったよ。どうりで君の反応が悪いわけだ。──まったく、あのクラウスという男……まぁいい。色々用意させておいた甲斐があるというものだ」

ベイリーが警護の男に目を向けると、男が胸元のポケットから何かを取り出してベイリーに渡した。

「押さえておけ」

強い力で押さえつけられて身動きが出来ない。
これ以上何をするつもりなのか。
ベイリーが警護の男から受け取った小さな箱から取り出したのは、細い注射器だった。
おそらく催淫効果のある薬かなにかだろう。

それを打たれればどうなるか。嫌でも予想がつく。
きっと私の意志とは関係なく否応なしに、ベイリーを受け入れてしまう。
手足を拘束した時点で、そんな薬などなくとも無理やりにでも突っ込めるだろうに。

「君がよくならないと私も気持ちよくなれないだろうからね」

自分がほぐすだなんだとの宣っておいて、結局は薬に頼らざるをえないベイリーが可笑しく思えてくる。
左腕にちくりと小さな痛みを感じた。抗う術もなく、薬を打たれてしまった。
果たして薬にどれほどの効果があるのか分からないが、正気を保っていられる時間はきっと残り僅かだ。

「……貴方は打たなくてよろしいの? 随分と元気がなさそうですけれど」

ベイリーは目をひん剝かせて私を見下ろした。よほど彼の自尊心を傷つけたらしい。
また頬でも叩くだろうか。今度は首を絞めでもするかもしれない。
でもそれでいい。そのくらいでないといけない。
私に集中させて、この男をこの場に繋ぎ止めるのだ。
他に何も考えさせるな。
私に出来ることはそれだけなのだから。

「全く口だけはよくまわる……!」

ぐ、と喉元を締め付けられる。
息が出来ずに体が酸素を求めて、勝手に口が大きく開いた。

「か、はっ……」
「もう喋らなくていい。静かにしておけ」

薬が効く前に意識が飛びそうだ。なんとか喉元を押さえるベイリーの手をのけようと首を振るも、彼の力は想像以上に強く意識が朦朧としだした私には払いのけることは出来なかった。
大人しくなった私を見てようやく、首にかけた手が緩まった。
どうせならあのまま意識を失っていた方がマシだったかもしれない。打たれた薬はまだ効かないのか、私の意識は鮮明なままだ。

「ようやくお前を味わえる──」

下半身に痛みが走る。異物が体内に侵入してくるのがハッキリと感じ取れた。
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