第27章 運命の糸先
自身のものが拒絶されるだなどと思ってもみなかったのだろう。
自尊心を傷つけられたのか、反応しない私に業を煮やしたのか、ベイリーは強引に口に押し込んできた。
喉奥まで押し込まれたそれにえずくと、ずるりとモノを吐き出させた後、彼は私の頬を叩いた。
「忘れていたよ、君は酷くされるのが好きらしい」
ベイリーはぞっとする顔で私を見下ろしている。色濃く影を帯びたその顔は、教会に来ていた“紳士”達と全く同じものだった。
「用意しておいて良かった。こんなものはいらないかと思っていたが」
ベッド下から何やら取り出したかと思うと、嬉しそうにそれを私に見せつけてきた。
「私は使ったことがないのだが……まぁ加減はするから」
体中の毛穴から汗が一気に出る。男の手に握られているそれは、軽く振られただけでヒュンと風を切る音がした。
背中の傷跡がじくじくと痛みだす。体はいつまでも覚えているのだろう。あの痛みを忘れることは決してない。
「どうかそれだけは……」
必死の懇願も、加虐心を煽るだけだった。
抵抗する間もなくドレスを剥かれたかと思えば、背中めがけて容赦なく鞭を振るわれた。
背中の古傷を抉られたようだった。シーツの上に赤い点々が飛び散ったのが見えた。
あまりの痛みに口から勝手に悲鳴が飛び出す。
なにが『加減をする』だ。はなからそんな気、無いくせに。
「私はそういう気はないんだがね……だが何故だろう、君のその顔……そそられる」
苦痛にゆがむ私の顔を見下ろして、ベイリーは舌なめずりをした。
もう一度鞭が振り下ろされそうになる。
やってくる衝撃にそなえて歯を食いしばったが、ベイリーは突然鞭を床に放り投げた。
「いや、駄目だ。これ以上傷つけては、君を帰した時に怪しまれてしまう。時間も惜しいしな」
この男に私を帰す気があるのだろうか?このままここで私を殺してしまってもおかしくない。
クラウスさんのところへ戻すメリットがこの男にはないというのに。
……手加減をしてやるからいい加減仕事をしろということだろうか。
どうやら私の予想は大当たりで、起き上がりたくても痛みで体を起こせない私の髪をひっつかんで、ベイリーはまた口の中にねじ込んできた。