第27章 運命の糸先
「奴らは、自分達だけで楽しんでおった! 私だって多額の寄付をしたというのに、予約が一杯だなんだとはぐらかして一度たりとも自分達以外の者に君を振舞わなかった!!」
ガンガン! とまた勢いよくステッキが床を鳴らした。
怒りに任せて物音を立てるその様は、駄々をこねる小さな子供のようで滑稽だ。
口にしている内容とその行動のアンバランスさから、余計に目の前の男が気持ち悪く思えた。
彼はまったくの子供だ。自分の欲求を満たすことばかり考えている。
けれど逆に考えれば、彼の思考は私にも読み取りやすいものだと言える。
駄々をこねる子供をあやすように、気持ちに寄り添うフリをすればよいのだ。
うまくいけば、彼の口から教会の黒幕についても聞き出せるかもしれない。ミスタ・ベイリーの言う『自分達』についてもう少し詳しい話を聞ければ、事件解明の糸口がつかめそうな気がする。
でも決して焦ってはいけない。
下手に聞き出そうとすれば、この男のことだ、私の考えなど見透かされてしまうだろう。
あくまで何も知らない女の子のふりをして、話を進めていかないと……。
「……では、貴方のお金で私達は生活が出来ていた部分もあるのですね」
そんなお金、たとえ飢え死にしたって受け取りたくはない。
そう思う本心を深い底に沈めて、ミスタ・ベイリーの自尊心を満たすように、言葉を選んだ。
「そうだよ! 君の口にするもの、身につけるもの、メンテナンスの費用……あそこで生きていくうえで必要なものは私の寄付から賄われたといっても過言ではない」
「まぁ……それなのに、私は貴方にお会いすることも出来ずにいたと」
「まったくけしからん話だろう?」
「ええ」
こくりと頷くと、ミスタ・ベイリーは分かってくれるか、と小さくこぼした。
「…“楽園の子供達”を始めると言い出した時に、もっと奴らの輪の中に入るべきだった。そうすればこんな危険をおかして君に会う必要も無かったのに」
『奴ら』
それがきっと私達を生み出した黒幕だろう。
もう少し、あと少しでその正体に手が届きそうなのに。
やはりこの男は肝心な部分では口を滑らしそうにない。
もっと踏み込んで尋ねるべきか。
言葉ひとつ間違えば、私の企みはおろか、下手をすればスティーブンさんの計画も水の泡になってしまう。
「さぁ、もうお喋りはいいだろう。君を味わいたくて仕方がない」