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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第27章 運命の糸先


こんなに計画通りに囮に引っかかってくれる人が現れるとは……けれど、この今の状況は予想外だ。
この場所がどこなのか、相手が何人いるかも分からない。

何かあったらバングルを使えと言われたけれど、まさか劇場の外に一瞬で連れ出されるなんて……スティーブンさん達は予測していただろうか。
何も策を講じていないとは思わないけれど、身の安全の保障は──無い。
だけど私に何かあれば、きっと彼らは動いてくれるはずだ。
彼らがここに来てくれるまでは……自分の身は自分で守らねばならない。

私の後ろは壁しかなく、外に通じる扉はミスタ・ベイリーの向こう側にひとつあるだけのようだった。

「逃げようとするだけ時間の無駄だよ、レディ。この部屋に出入りの扉はひとつ。君には開けられやしないさ。呪術障壁が張ってあるからね」

私の視線を読んだのか、ミスタ・ベイリーはニヤリと笑った。
彼の言う通り、扉の前にはミスタ・ベイリーとその手下が陣取っているし、仮に扉までたどり着きなんとか部屋の外に出たとしてこの人達から逃げきれるとは思えない。
部屋の外にだっておそらく仲間がいるだろう。

「そう、賢い子だね。大丈夫、君が無駄な抵抗をしなければ芝居が終わる前には返してあげられるだろうから」

ぞっとするくらい気味の悪い笑みを浮かべ、ミスタ・ベイリーはまたゆっくりと私に近付いてくる。
覚悟は決めていたはずだった。けれど実際に身の危険を感じている今、足が震えてしまうのはどうしようもなかった。

きっと必ず助けは来る。
それまで、少しでも時間を稼がなければ──。
こういう時、どうすれば相手は私の思うように動いてくれるだろうか……。とにかく時間を稼ぎたい。何でもいい、何か、相手の気を引けることを考えないと。

「ミスタ・ベイリー、その前に教えて下さらない? 私、貴方のこと何も知らないわ。どうして私をご存じなの?」
「──君は有名だった。一度抱けばその虜になると、私達の間では実に評判だったよ……だが、やつらときたら!」

ミスタ・ベイリーはそこまで言うと、手にしていたステッキで床を激しく打ち付けた。よほど腹に据えかねることがあったのだろう、彼はこちらが促さずとも滔々と話を続けた。
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