第27章 運命の糸先
「スターフェイズ様より場所は伺っております。最短ルートで参りますよ、坊ちゃま」
「ああ。頼んだ」
ギルベルトの目がギラリと光ると、車もそれに合わせたかのように急加速した。
思い切り踏み込まれたアクセルに、車はけたたましいエンジン音を上げた。それはまるでクラウスの胸中の叫びのようだった。
唇はいまだ噛みしめられたまま、姿の見えぬ敵に向けた敵意は彼の鋭さを増していく瞳に宿っていた。
「坊ちゃま、どうか冷静に」
「分かっている」
クラウスの即答に、ギルベルトはチラとだけバックミラーで主人の顔を確認した。視線は鋭く前だけを見据えている。固く握りしめられた拳は怒りに打ち震えていた。
おそらくクラウス自身も己の中で燃え上がる怒りを自覚しており、それを制御すべきだと理解している。
けれども頭では分かっていながらも、時折感情のままに暴走する癖があることを、長年クラウスに仕えているギルベルトは把握していた。
暴走する主人をどこまで止められるか──それはギルベルト自身にも未知数だった。
ギルベルトの頭の中にも、クラウスの頭の中にも、最悪の光景が浮かんでは消えていく。
アメリアの身がどうか無事であるようにと祈りながら、二人の乗った車は、およそ道路の概念を無視して目的地へと爆走を続けた。
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「……ここ、は……?」
ブロンドの女性の笑みを見たところまでは覚えている。
気が付いたらあたりは真っ暗闇に包まれていて、次の瞬間には私は見慣れぬ部屋の中にいた。
この部屋の匂いも空気も、いままで感じたことのないものだ。
どういった原理かは分からないけれど、劇場内のレストルームからどこかへ飛ばされたのだと思う。
「待っていたよ、ミス・シャーロット──いや、No.515と呼んだ方がよいかな?」
『No.515』
その数字を知る者──それはすなわち、あの教会を知っている者に他ならない。
「その名はもうとっくに捨てました、ミスタ・ベイリー」
声音は少し震えていたかもしれない。
自分の置かれた状況を思えば、怖くないわけがなかった。
けれど、相手に弱いところなど見せたくなかった。
これは私なりの意地だ。私はもう、あの頃のように黙って屈したりしない。