第4章 邂逅
──兄は、自分は神に力を授けられたと言ってきかなかった。
教会で、牧師を殺したのは自分だと。
神の御力(みちから)を授かり、その力を使って殺したのだと、兄は告白したのだ。
はじめは、私も、教会からともに逃げ出した仲間も、兄の言葉を信じようとはしなかった。
私は確かにあの現場にいたし、兄の傷が治っているのも目にした。
だけどそれは神様のお力だったとしても、不思議な力を授かったとは思えなかった。
正確にいえば、兄が誰かを殺したとは思いたくなかったのだと思う。
だから、兄の力を信じたくなかったのだろう。
けれど、兄には確かに不思議な力が宿っていた。
兄が触れて祈るだけで、レジからお金を渡してくれる人、商品を無償で渡してくれる人、私達を憐れんで恵んでくださるというにはあまりにも高価なものを次々と手渡してくるものだから、私達は兄の言葉を信じるよりほかなかった。
だけど、施しを受けるだけでは、兄は自分の力の証明にならないと思ったのか、みんなの前で人を操ってみせると言って、先ほどの異界人を暴れさせる結果になったのだった。
兄が、あの異界人を操らなければ。
あの人は殺されずに済んだし、街の人達だって怪我をせずに済んだだろう。
自分の力の証明に、人が傷つくことを厭わない兄の考えに、私は背筋が冷たくなった。
「…その力は、もっと別のことに使うべきだわ。あんな風に誰かを操って、傷つけて。あの人、兄さんが操らなければ殺されることはなかった。もっと善きべきことに、その力を使って」
「善きべきこと、だって?」
「だって、そうでしょ。私達はあの人達を傷つける権利も理由もないのよ」
「何を言ってるんだアメリア」
兄の目が鋭く光った。
その鋭さに、冷や汗が背中をつたう。
「あいつらはのうのうと、安穏と、僕たちの苦しみも知らずに日々を過ごしているんだぞ」
「それは──仕方のない事でしょ。私達は、ずっと隠されてきた。外の人達が私達の苦しみなんて知るはずもないわ」
兄は、牧師様を、そして金で私達を買った大人達を、心底憎んでいた。
牧師様亡き今、恨むべき相手は金で買った大人達なのだろうけれど、彼らの素性を私達は知らない。