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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第4章 邂逅



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「アメリア、良かった! 無事で」

「ええ……」


兄と合流した私は、まだ放心状態だった。

おかしなものに襲われた恐怖も確かに残っていた。

けれどそれ以上に、私はあの紳士──ミスタ・クラウスのことが頭から離れないでいた。

「どうした? 頭でも打ったのか? なんだかぼんやりしているように見えるが」

「……兄さん。あの方、私の事を“レディ”って仰ったのよ」

「あの方……ああ、あの赤毛の大男か」

「ミスタ・クラウスよ」

「ふぅん。なに、一目惚れでもしたのか?」

からかうような兄の声に、ムッとする。

「違うの。そういうのじゃなくて。…あんな風に、私を1人の人間として扱ってくださった方、初めてだったから」


『商品』として、扱われてばかりだった。
あんな風に、身を挺して命を助けられるなんて、ついぞ無い事だと思っていたのに。

まるで物語の『騎士』のようで、彼の事を思うとふわふわと不思議な気持ちに包まれる。


「おかしな奴らだったな。警察でもないのに、立ち向かうなんて」

「素晴らしい方達だったわね。率先して人々を助けるなんて」


兄と私は数回瞬きし合う。

同じ光景を目にしていたはずなのに、まるで正反対の意見が私達の口から出て来ていた。

「いや、おかしなヤツらだろ。自分達が怪我するかも、もしかしたら死ぬかもしれないってのに」

「だから素晴らしいんじゃない。危険を顧みず、見ず知らずの人の命を救うのよ?」

私も兄も、互いの意見に納得できないでいる顔をしていた。

「…そうだったな。お前は性善説の人間だった。俺とは真逆なんだ、考え方が」


兄が人を信用出来ないのも仕方ない事だと、分かってはいる。

私達が置かれていた、あの苦痛に満ちた日々を思えば。

だけど、私の目の前に現れて、手を差し伸べてくださったあの紳士は。

きっと兄が思うような人ではない。

たった一度助けられただけで、知った風な口をきくなと兄には言われるだろうから、その想いを口にはしなかった。



「アメリア、お前を危険な目に合わせてしまったことは謝る。だが、今日のでよく分かっただろ。これは、“神の御力(みちから)”だよ。僕らの願いは、強く祈ればなんでも叶えられるんだ」


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