第1章 序章
―ヘルサレムズ・ロット某所にある教会兼孤児院―
霧雨が降る中、寂れた小さな教会の前に黒塗りの車が止まった。
運転手が後部座席のドアを開けると、中からゆっくりと赤茶色の革靴が顔をのぞかせる。
跳ねる水しぶきを気にしてか、革靴の主はこれまたゆっくりと慎重に教会へと歩を進めた。
持っていた樫のステッキで教会の扉をノックする。
すぐさま扉は開かれた。
中から顔をのぞかせたのはこの教会の牧師であろう。
牧師は訪問者を見るなり、穏やかな笑みを浮かべて教会の中へ招き入れた。
「515番を」
訪問者の男の、低い声が静かにそう告げると、牧師は頭を下げた。
「かしこまりました。すぐに準備して参ります。お先にお部屋にてお待ちいただけますか」
男は頷いて、勝手知ったる教会の中を悠々と歩んでいく。
聖堂を抜けた先にある小さな小屋の中に入ると、上着を乱雑に脱ぎ捨てた。
すぐそばにある小さなベッドに腰を下ろすと、ギシギシと軋んだ音が鳴る。
──なんとも粗末な設備だ。
普段男が寝具として使用しているものとは比べ物にならないほど粗悪なベッドに舌打ちしながらも、男はその点については目を瞑ろうと思い直した。
──贅沢は言えまい。このような場所は他にないのだから。
控えめなノックの音がした。
男はすぐさま視線と意識をドアの方へ向けた。
「失礼いたします」
「待っていたよ」
さぁおいで、と男が催促するように両手を広げると、部屋の中に足を踏み入れた少女は無言のまま男の胸の中へととびこんだ。
「さぁ今宵もたっぷりと楽しませておくれ」
昂る気持ちを抑えられず、男は腕の中の少女の体を激しくまさぐり始める。
それに応えるように、少女の口からは甘い吐息が漏れ出していた。