第26章 Cinderella Dream
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百貨店の次に向かった先は、ホテルの中にあるレストランだった。
個室に通されてクラウスさんと向かい合って座る。
18時からのお芝居に間に合わせる為、いつもの夕食の時間より少し早い時間だった。
メニューを見せられてもどんな料理かよく分からない言葉が並んでいて、クラウスさんに全部お任せすることにした。
注文を取りに来た店員さんが部屋を出ていくと、おもむろにクラウスさんが椅子から立ち上がり、私のすぐそばで跪く。
クラウスさんが一体何をしようとしているのかぱちくりと瞬きして彼の顔を見ると、こほんと咳ばらいをした後に大きな手が首筋をするりとなぞり始めた。
そこでようやく、食事の前の儀式をするのだと理解した。
もう幾度となく経験しているはずなのに、いつもと雰囲気が違うからか、妙に気恥しく思えてくる。
個室とはいえいつもの事務所とは違う外の世界。
すぐに誰かが部屋にやってくることはなさそうだったけれど、部屋の前を誰かが通っていく気配は度々感じられて、その度にどきりとしてしまう。
ゆっくり近づいてくる唇と熱。
一度軽く触れた後にやってくる、体の芯から火を灯すような熱い口づけに身を委ねた。
言葉を交わすことはない。ただ互いの熱情をぶつけあい、求め合う。
体の奥が疼くのをこらえ、息をするようにひたすらクラウスさんの口内をさまよった。出迎えてくれる彼の太く熱い舌が音を立てるたびに、全身に痺れるような感覚が走る。
ほのかに甘い花の香りが漂い始めると、クラウスさんはそこでようやく私から離れていく。
互いにのぼせたような顔を見て、気恥ずかしさで目をそらす。
荒くなった息を整えながら、クラウスさんが席に戻るのを黙って見ていた。
彼が腰を下ろすと同じくらいに、部屋の扉が開いてワゴンを押したウェイターさんが入ってきた。
ワゴンにはホールのケーキが載せられていて、小さな花火がパチパチと音をたてて輝いている。
食事もまだだというのに出てきたケーキにきょとんとしていると、クラウスさんが首を振った。
「こちらは頼んでいないのだが」
「えっ?」
驚いたウェイターさんは何か伝票のようなものを確認し始めた。
「申し訳ありません、お部屋を間違えていたようです」
頭を下げ慌ててウェイターさんは部屋を出ていった。
しばらくするとどこかでハッピーバースデーの曲が流れだした。