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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第26章 Cinderella Dream



「ご心配いりませんわ、アメリア様。ドレスと一口に言いましても様々な種類がごさいます。当店にはどのようなお客様も満足させられるだけの衣装の用意がございますから、ご安心くださいませ」

ミス・レイチェルは笑みを浮かべたまま、私に気になったドレスはないかと尋ねる。
私の先ほどの懸念を見越していたのか、用意されていたドレスはどれも首元と背中はしっかりと隠れるデザインのものばかりだった。

色とりどりの中から私が選んだものは、淡い紫色のもの。
首元にはしっかりとした襟がついており、襟のすぐ下からはうっすらと肌が見える透け感のある素材に花の刺繍がほどこされている。
それが同じように袖にも使われていて、首元や背中を隠しているわりには重たく見えない。

「アメリア様の雰囲気にピッタリですわ。透明感もあって清楚な雰囲気も出ますね」

そう言ってミス・レイチェルは褒めて下さったけれど、ドレスを実際に着てもどこかドレスに着られている感じがしてしまう。
この後ヘアメイクをしてもらうとはいえ、私が正装したクラウスさんの隣に立ってもおかしくはないだろうか。
見かけばかり大人の装いをしても、中身は変わらない私のままだ。

全身映った鏡の前で立ちすくむ私の横で、ミス・レイチェルはにっこりと微笑んでお似合いです、と仰った。

「…本当ですか?」

なんとも失礼な言葉を吐いてしまった私に、ミス・レイチェルは表情を変えずに頷いた。

「ええ、もちろん」
「ドレスに着られてはいないでしょうか? クラウスさんの横にいてもおかしくないでしょうか? もっと大人しいデザインの方がいいでしょうか」

不安から矢継ぎ早に尋ねる私を落ち着かせるように、ミス・レイチェルはゆっくりと答える。

「こちらのドレスがよくお似合いだと思います。ただ、足りないものがあるとすれば……」
「なんでしょう? 教えてください」

鏡の中のミス・レイチェルから隣に立っている彼女に視線を移すと、彼女は人差し指だけ立ててこう言った。

「自信、ですね」

自信。
確かに私には自信なんて欠片もない。
ここにいることすら奇跡で、ましてやクラウスさんと着飾って出かけるなんて夢みたいな話で。
突然転がり込んできた御伽噺みたいな世界に、背伸びして立っているのがやっとだ。
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