第26章 Cinderella Dream
人の欲望は、果てしないものだ。
ひとつ手に入れたと思ったら、すぐにその先のものが欲しくなる。
手に入れられないと分かれば分かるほど、想いは渇望へ変わり、さらに自分自身を苦しめる。
どれだけ望んでも手に入らないものはあると分かっているはずなのに。
手を伸ばせば届く距離にその人がいても、その心まで手に入る訳ではないのに。
考えれば考えるほど沈んでいく思考を断ち切るように、アメリアはぐっと小さな手を握りしめた。
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─アメリアside─
「ようこそいらっしゃいました、アメリア様、クラウス様」
クラウスさんにはじめに連れてこられたのは、以前ホテルの一室でお会いしたミス・レイチェルの勤める百貨店だった。
私達を出迎えてくれたミス・レイチェルは今日も真っ赤な唇が印象的だ。
「ミス・レイチェル、よろしく頼む」
「はい。私にお任せください。クラウス様のお召し物もご準備しております」
「ありがとう。ではアメリア、また後で」
クラウスさんは別室に着替えに行ってしまった。
その後ろ姿を見送らないうちに、ミス・レイチェルに試着部屋へと案内された。
「またお会いできて嬉しいですわ。今日は全身フルコーディネイトとの事ですから、腕がなります」
「よろしくお願いします」
今日の外出の大きな目的は、19時からのお芝居。
それもただのお芝居ではなく、招待された人しか入れないごく限られたものだというから、それなりの服装で望まなければならないそうで。
部屋の周囲にはドレスのかかったハンガーラックがぐるりと並んでいて、遠目に見てもどれもきらきらと輝いて見える。
ミス・レイチェルに連れられて並ぶドレス達の前に身を置いたものの、こんな高価なものを身に着けている自分の姿はついぞ想像もつかなかった。
「あの……」
「何でしょう?」
「ミス・レイチェルも以前ご覧になって御存知だとは思うのですが……私、背中にひどい傷跡があって。それに、首筋にタトゥーもあって……」
どちらも忌まわしい過去の記憶を呼び起こすもの。
そして華やかな場にはふさわしくないものだ。
ドレスというとどうしても首元や背中は大きくあいたものが多い。
気にする私に、ミス・レイチェルはにっこりと微笑んだ。