第25章 ある者の独白
けれどやはりそれだけではスティーブンは満足しなかった。
一人だけでは心許ない、とすげない返答がとんでくる。
イアンと同じようにレオナルドの顔色も悪くなっていった。
記憶を覗けば自分だけでなく、イアン本人の傷を抉ることになる。
たとえ血を流してでも、黒幕に繋がる細い線を辿る為には手を緩めてはいけないのだとレオナルドも十分理解している。
もし他に手段があるのならそっちを選んでいるだろう事も。
イアンの記憶を探るしか方法はない。
だが人の心を傷つけてまで情報を得る事に、義はあるのだろうか?
「……続けよう。もっと情報がいるんだろう」
迷うレオナルドに、イアンの強い眼差しが突き刺さった。
青い顔をしたままのイアンだったが、それでも目に宿った光は揺るぎない。
レオナルドは頷いてもう一度イアンの記憶の中へと飛び込んでいった。
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─ライブラ事務所─
事務所へ戻るなり、レオナルドはスティーブンに渡された分厚いファイルの山の中へ埋もれることになった。
すでにスティーブンはあらかた目星をつけた顧客のリストを作成していたようだ。
その膨大なリストの中から、レオナルドはイアンの記憶と一致する顧客を見つけ出すように指示された。
クラウスも手伝おうとソファに腰を下ろしかけたものの、その途中でスティーブンに制止されてしまった。
「クラウス、君は少女の方を頼む」
「しかし今は少しでも早く手掛かりを」
「それはもちろんそうだよ。けど、こっちは僕らに任せて。……というか、少女の方は君にしか頼めないんだからさ。彼女も色々あった事だし、そばについていてやってくれないか」
確かにアメリアはイアンが確保されてからというものふさぎこむように部屋に閉じこもったままだった。
この数か月の間で彼女の身に起きた出来事の数々。
教会で地獄のような日々を過ごしてきた彼女にとっても、目まぐるしい環境の変化はかなり精神的にも肉体的にもこたえているはずだ。
そこに先だってのイアンの身柄の拘束が加われば、アメリアがふさぎこんでしまうのも無理もない話だった。
事件を解決するためだと、アメリアも割り切ってはいただろう。
けれど、氷漬けにされそのまま連れて行かれる兄の姿を目にした事は、アメリアにとって大きなショックだったに違いない。