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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第25章 ある者の独白



「すまないスティーブン」
「大丈夫だよこっちは。少年がバッチリ顔を見ているからね。すぐ見つかるさ。…あぁそうだクラウス」

スティーブンは何やらごそごそと胸元のポケットをさぐると、取り出したものをクラウスに向けて差し出した。
クラウスは受け取ったものをしげしげと見つめた。
スティーブンに手渡された真っ白な封筒には艶やかな金色の蔓唐草が踊っている。
中央には“Steven Allan Starphase”の名が記されており、スティーブン宛のものだと分かる。
受け取り主のスティーブンがよこしたのだから中を見ても差し障りはないのだろうとクラウスは思ったものの、どういった意図で彼が渡してきたのか計りかね、首をかしげてスティーブンを見やった。

「3日後にある舞台のレセプションに招待されたんだけどね。僕は行けそうにないから、君があの子と一緒に行くといい。少しは気晴らしになるんじゃないかな」
「しかし……」
「君が言いたいことは分かるよ。まだ黒幕に辿り着いたわけじゃない。気を抜いていい段階じゃない……けど、あの子だって相当無理してる。もうずっと病院以外は外に出ていないんだ。少しくらい外の空気を吸わせてあげてもいいんじゃないか?」

スティーブンの言う事は最もだった。
アメリアの身の安全のためとはいえ、外出は病院のみ。
同じ年頃の少女達が街を歩いてウィンドウショッピングを楽しんでいる間も、アメリアはずっとこのライブラ事務所の一室に身を潜めている。
“普通”の子達と同じように、“普通”の生活を送らせてやりたいと願ってやまないはずなのに、現状では軟禁状態だ。

「その舞台、前評判がすごく良くてね。きっと彼女も楽しめると思うよ」
「うむ」
「──それにかなり限られた“レセプション”だから。来ている客の身元はハッキリしている。…君が心配しているのはそこだろう?」
「む…」

考えを言い当てられたクラウスの目が少しばかり大きくなった。
君の考えていることは分かるよ、とスティーブンが笑う。

「アメリアの意見を聞いてみなければ」
「君の誘いなら断りはしないだろうさ」
「そう、だと良いのだが」

自信なさげなクラウスの丸まった背を、スティーブンが力強く叩いた。
背筋が伸びたクラウスの後ろ姿をスティーブンの目は真っ直ぐに見つめていた。
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