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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第25章 ある者の独白



皆、ただ静かにレオナルドの話を聞いていた。
ダニエル達に急かされる様子のない事を確認して、レオナルドはイアンに語りかける。

「だから、君の気持ちを少しは分かるつもりだよ。…今から君には辛い事を頼む。でもアメリアを守るために、他の子供達を救うために、どうか力を貸してほしい」
「僕は──償わなければならない。力になれることがあるのならなんだってするよ」

イアンの目はしっかりとレオナルドを見つめていた。
何が起ころうとも覚悟は揺らがないと言わんばかりの力強い眼差しだった。

「イアン、教会で……体験したことを思い出して。頭の中で思い出すだけでいい。何も言わなくていいから」

レオナルドの言葉にイアンは少しだけ怪訝な顔をしたものの、静かに記憶を辿ろうと目をつぶった。

「あ、ごめん。目は開けておいて。僕の目を見ていてほしいんだ」

イアンが目を開けると、目の前のレオナルドの眼が青く輝いていた。
一瞬驚いたイアンだったがすぐにまたレオナルドの眼を真っすぐに見つめる。

するとレオナルドの脳内にイアンの記憶がどっと流れ込んできた。
そのほとんどがアメリアの姿だった。
そのうちに場面が変わっていき、ベッドの上に寝転がる男の姿が現れた。
男は自分の衣服を脱がさせて、股間にイアンの顔を強く押し付ける。
イアンの目線での出来事を覗くレオナルドにとっては、まるで自分が男の股間に無理矢理顔を埋(うず)めさせられているようで、吐き気を抑えるのがやっとだった。

ようやく事が終わって、男の顔を見上げる。

満足そうに微笑む男の顔を、レオナルドは目に焼き付けた。
柔和そうな垂れ下がった目に、逆三角形のとがった耳。
その男がまた笑みを浮かべたままこちらに手を伸ばしてきて──そこでプツリと映像は途切れ真っ暗になってしまった。

「…っ、すまない。すこし気分が」

イアンは青い顔で口元を押さえていた。
まだ客の一人の顔を確認しただけだ。
情報を得る為にはもっとイアンの記憶を探らねば。
きっとスティーブンならもう一度記憶を見るよう指示するだろう。
そうレオナルドは思うものの、目の前で辛そうな顔をしているイアンにもう一度思い出せとは言えなかった。

「…男の顔が見えました、ハッキリと」

もうそれで十分だろうと言わんばかりにレオナルドはスティーブンの顔を見た。
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