第25章 ある者の独白
「レオ。急に呼び出してすまない」
「大丈夫っす」
「警部補に話は通しておいた。行こうか」
警察署へ向かう道中でクラウス達から仕事内容の説明を受けたレオナルドは「分かりました」と返事をしたものの、内心あまり気が乗らなかった。
(仕事なんだから仕方ない。仕方ない……けど)
アメリアの記憶を覗いた時、レオナルドは自分が見た光景に吐き気を覚えずにはいられなかった。
男達が代わる代わるやって来ては体の上にのしかかり、好き勝手にいじり倒し、時には傷つけることも厭わない。
肌の上を這いずる腫れぼったい舌の熱まで感じるような気がして、記憶を読み取っていたレオナルドの気分は最悪なものだった。
HLに来てからレオナルドは幾度となく酷い現場を見てきた。
そういった経験を踏まえても、アメリアの身に起こったことを義眼を通して目の当たりにすると、言いようのない不快感と怒りがレオナルドの身の内に湧き上がった。
離れた場所に住む自分の妹とアメリアがそう年の変わらないことも、彼の気持ちをより波立たせていた。
アメリアの記憶の中の男達の顔に靄(もや)がかかっていたのも仕方ないと思えた。
こんなおぞましい体験を鮮明に思い出したい者なんていないだろう。
それでもレオナルドはその“眼”で真実を探り当てなければならない。
これから向かう先でまた同じような光景を目にしなければならないのかと思うと、レオナルドは胃のあたりが気持ち悪くなるのだった。
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─警察署─
「人払いは済ませてある」
「気を遣ってもらって悪いね」
「ウチもだいぶ切羽詰まってるんでね」
ダニエル警部補の後に続いてクラウス達はイアンの元へ向かった。
アクリル板を隔ててイアンの姿が見える。
姿勢よく真っ直ぐに前を向いていたイアンは、ドアが開くなり視線をそちらに向けた。
ダニエル警部補の後からぞろぞろと部屋に入って来たクラウス達に一礼するイアンは憑き物が落ちたように落ち着いた様子だ。
「イアン、早速で悪いが協力してもらいたい」
「僕に出来る事ならなんなりと」
クラウスの言葉に静かに頷いたイアンの前に、レオナルドが座って会釈した。
イアンも会釈をして、レオナルドの言葉を待つ。
「──僕にも、アメリアと同じくらいの年の妹がいるんだ」