第25章 ある者の独白
ドゥキドナの眼球という眼球は、ぐるぐると気持ち悪いくらいに回転していた。
見ているだけで吐き気がしそうで、ダニエルはふいと目をそらす。
「この期に及んで、子供の事をダシに罪を軽くしてもらおうなんざ考えんなよ? お前には自分のやった事の重さを自覚してもらう」
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─ライブラ事務所─
「…結局、黒幕に繋がる手掛かりは見つからなかったな」
ダニエルからの報告をまとめた文書を片手に、スティーブンはクラウスに視線を投げた。
イアンと幻術使い──ドゥキドナの身柄を拘束することに成功したものの、そこから教会関係者に繋がる何らかの手掛かりがつかめるだろうと期待していたスティーブン達の思惑はあっさりと外れた。
イアンはアメリアと同じく、教会について知っていることは少なかった。また彼自身の記憶についても、やはりアメリアと同じように妙な空白の期間があった。
劣悪な環境に身を置いていた為に記憶が飛んでしまっている可能性も否定できなかったが、スティーブン達はやはりクローンの可能性が高いとみていた。
「他の子供達の行方も気になるな。ザップと縁のあった──リアの行方も。イアンがそばにいない今、その少女は身を隠す術を持たないはずだ。」
「捜索させてはいるが……もしかすると、リアも」
「黒幕の手に落ちている可能性があるな」
クラウスの口からもスティーブンの口からも、深いため息しか出てこない。
そのため息も、もう何度目かしれなかった。
しかし落ち込んでばかりもいられない。
何か事件解決の糸口になるものはないかと、クラウスもスティーブンも必死で資料を読み返す。
けれどいくら読み込んだところで新たな文字が増えるわけもなく、そのうちに、スティーブンは資料を机の上に放り投げてしまった。
「イアンに面会を願おう、クラウス」
スティーブンの意図するところを瞬時に察知したクラウスは頷いてレオナルドに連絡をとる。
ワンコールで繋がったレオナルドに事務所に来るように伝えるとクラウスは視線をスティーブンに移した。
「イアンの“眼”には残っているだろうか」
「分からないな。アメリアの時のように鮮明ではないかもしれない。だけど今出来るのはイアンの記憶から顧客の顔を炙り出すことくらいだ」