第25章 ある者の独白
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ダニエルは机上に、読み終えた供述調書をほうった。
もう何度も読み返しているが、やはり頭の痛くなる文章だ。
語ることに酔っている。ここまであからさまに自分に酔った調書を見るのは、久しぶりだ。
幻術使い──名をドゥキドナと答えた異界人は、長らく誰とも話していなかった反動か、冗長にこれまでの経緯を語った。
調書をまとめるのも一苦労だった。
彼の証言をまとめれば、イアンが起こしていたとされる事故や事件の数々は、ドゥキドナの幻術によって引き起こされたものだという事だった。
その証拠に、イアンを調べても彼には特別な力─PSI(サイ)が備わっていなかった。
ドゥキドナの幻術で、イアンの思う通りの事を起こし、自分には力があると思わせたようだ。
子供達を守りたかったから、影から見守るために、イアンの勘違いを利用して子供達の側についていたとドゥキドナは言う。
復讐をするイアンを止めなかったのも、子供達の境遇に同情を寄せていたからだと話す。
しかしダニエルはドゥキドナの言葉をそのまま信じる気にはなれなかった。
異界人と人間との考え方の差かもしれない。もしくは人種問わず、個人としての考え方の違いかもしれないが『子供達を守りたい』にしては、やっている事が矛盾してはいないかとダニエルは考えた。
──異界人の考える事はたまに突拍子もねぇ事があるが…だが『子供を守りたい』と言っておいて、ヤツは子供達を危険な目にあわせている。騒ぎに巻き込まれて亡くなった子供もいる。アメリアだってクラウスが助けなければ死んでいたかもしれない。
再びドゥキドナにまみえた時、ダニエルは「お前の言葉には嘘がある」と言って話を始めた。
何故、と驚いた声のドゥキドナの眼前に、ダニエルは顔を近づけた。
目玉の集合体のようなドゥキドナのどこに焦点を当ててよいのか一瞬悩んだダニエルだったが、顔を近づけた途端、無数の目玉は一斉にダニエルに視線を注いだ。
「お前はイアンの復讐心を過剰に煽って、テメェ自身の憂さ晴らしがしたかっただけだろ」
ドゥキドナの目玉がてんであちこちに視線を泳がし始める。
表情が読み取れない分感情を察するのは難しかったが、この目玉の動きは明らかに動揺しているのが見て取れた。
「子供が可哀想だ? 違ぇな。テメェは自分が一番可哀想だと思っていやがんだよ」