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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第24章 “Long time no see.”



周囲の声援に笑顔を見せ、クラウスの方に向き直った時には、グレゴールの顔は闘争心に満ちた漢の顔に変わっていた。

「──心意気は買いたいもんだが…あれでは秒も持たないだろうな」
「っ、ス、スティーブンさん」
レオナルドの浮ついた声に、スティーブンはちらりと視線をやった。
「何だ少年」
「現れました……彼です」

レオナルドの言葉に、スティーブンは双眼鏡を覗き込む。
じわりと視界が歪みだし、スティーブンの目にはレオナルドの見ている世界が広がっていった。
リングの上のクラウスは虚空に向かってファイティングポーズをとっており、クラウスの背後には少年の姿と少年に取りつくようにして宙に浮かんでいる何者かの姿がある。

「あれが幻術使い、か」
「多分そうです。あの少年を取り込んでいるような──あれじゃまるで、操られているみたいだ」
「……レオ、このまま視界共有していてくれ。──各員に告ぐ、対象がリング上に現れた。これから確保にうつる。クラウス、君はそのまま試合を続けてくれ」

潜入していたメンバー達に緊張が走る。
リング上ではグレゴールとクラウスの試合が始まっており、矢継ぎ早にパンチを繰り出すグレゴールの攻撃を、クラウスが防戦する一方だ。
パンチが繰り出される度に少しずつクラウスの体はリングロープの方へと押されていく。

「おいクラウス?! お前手加減してんじゃねーぞ!! 今までの勢いはどこいったよ?!?」
「ヒューマ相手だからって構うこたねぇ! やれっ!! やっちまえー!」

観客達にはグレゴールが押しているような試合が見えているのだろう。
だがレオナルドの視界を共有したスティーブンの目には、虚空と戦うクラウスと、その背中に迫るイアンの姿がハッキリと映っていた。

「──アメリア、頼んだよ」

スティーブンの通信を受け取ったアメリアは頷いて特等席の小窓から顔を出して叫んだ。

「兄さん!!」

アメリアの声に、リング上のイアンは一瞬ビクリとする。
その瞬間にスティーブンは上階観客席の手すりからリングに向かって飛び出していた。

「エスメラルダ式血凍道──ヴィエントデルセロアブソルート!」

凍てつくような鋭い冷たさをはらんだ風が、会場を吹き抜ける。
クラウスの背に手を伸ばしたままの姿勢で、イアンとイアンに繋がった幻術使いは固まってしまった。

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