第24章 “Long time no see.”
準備していた対戦相手が尽きてしまったのだろうか、そんな風にスティーブンが思い始めた時だった。
「──他に、いないのかね? 私はまだ余裕だが」
クラウスの目がギロリとあたりを眺めまわす。
煽るようなクラウスの言葉に、会場は沸き立った。
司会者はぐるりと観客を見回して、挑戦者を募り始めた。
しかし観客として来ている者達は試合観戦を求めて来ているだけで、クラウスと戦うつもりの者は皆無だった。
中には多少腕に覚えのある者もいたが、先ほどまでの試合を観ているうちにクラウスと戦おうなんていう気力は削がれている。
どこか不完全燃焼な観客達は挑戦者がいない事に一斉にブーイングを起こし始めた。
司会者は慌てたようにぐるぐるとリング上をせわしなく動き回る。
『誰か、挑戦者は──?!』
パッと、スポットライトが観客席の一部を照らした。
大きな光の輪は次第に狭まっていき、一人の人物の上に降り注いだ。
シンと静まった観客をかきわけて、その人物はゆっくりとリングに近づいていく。
「おいおい、アンタじゃ相手になんねぇだろ」
「いやむしろアリなんじゃねぇか?!」
「でもよぉ……今までの試合の見応えからするとちぃっと見劣りすんじゃね」
かけられる観客の声に笑って手を振って、ピンスポットを浴びた人物はリングのロープに手をかけた。
リング上に現れたのはクラウスより幾分か華奢な─それでも鍛え上げられた体をした─長髪の男性だった。
「君は──」
「久しぶりだね、クラウス」
真っ直ぐに拳をクラウスに向けたその男は、以前この地下闘技場で一度まみえた事のある──グレゴール・マキシマスだった。
「以前会った時は結局、戦えなかったからね。一度拳を交えたいとずっと思っていたのさ」
「ならば手合わせ願おうか」
『なんとここで!! 元e-denヒューマ級チャンピオン、グレゴォォール・マキシマァスの登場ォー!!!』
今までの対戦相手からするとごくごく普通の人間であるグレゴールに、観客からはどよめきが漏れる。
あのヒューマで秒も持つはずがない、今までの対戦相手を見てきただけに誰しもがそんな事を考えていた。
しかしあの戦いを見てもなお、リングに上がる決意をしたグレゴールに、観客達は次第に声援を送り始めた。
「せめて3秒くらいは持ってくれよぉ―、グレゴール!!」
「一発当ててやれ!!」