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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第24章 “Long time no see.”



「なっ、なんだァ?!」
「おい試合は?! グレゴールどこ行ったんだよ」
「誰だよアイツは?? あんなとこで何やってんだ」

今まで見ていた試合が突然として消え、正体不明のヒューマの子供の凍った姿とスティーブンがリング上に現れたことで、観客達は困惑の表情を浮かべていた。
しばらくすると怒号が飛び交い始め、試合をやれと観客達がリングに押し寄せ始めた。

『──あー、会場にいるヤツ全員に告ぐ!!その場から動くな』

突然、ハウリングを起こしかけのスピーカー音が会場に響いた。
キンキンとした耳障りな金属音に顔をしかめる観客達。そんなことはお構いなしで、またスピーカーはがなり立てる。

『お前たち全員、違法賭博の罪で逮捕する。警察から逃げられると思うなよ』

拡声器を口元から離して、ダニエル・ロウ警部補が不敵な笑みを浮かべると、観客達は一斉に出口へ駆け出した。
押し合いへし合い、逃げだす観客達をよそに、ダニエルは棒読みで「おい逃げるなっつってんだろ」と言うばかりであった。

会場内に残ったのは、警察とライブラ、そしてイアンと幻術使いのみとなり、いまだ体が固まったままのイアン達の元に事件を追っていた者達がずらりと集まった。

「ようやく、再会が果たせたな」

スティーブンの射るような眼差しに、凍った体以上に寒気を覚えたイアンはガチガチと歯を鳴らす。

「上手くいくと思ったのかい? 随分とお粗末な計画だったね、イアン」
「……くそっ……あと、少しだったのに……」
「あと少し? ハッ、冗談だろ。君の手がクラウスにすんなり届くと本当に思っていたのかい」
「っ…!」

冷たく暗い色をした双眸が、イアンの身を貫いた。
白い息がイアンの目の前を漂っていく。その息の向こうに見えるスティーブンは、イアンが今まで見てきた何よりも恐ろしく見えた。

「い、妹は……アメリアは、無事なんだろうな……」
「心外だな。僕らが彼女を傷つけるとでも?」
「兄さん」
「アメリア」

冷たく固まったままのイアンを、アメリアは抱きしめた。
触れただけで身も凍りそうなその冷たさに、アメリアは自分が凍らされた時のことを思い出していた。

「スティーブンさん」
「悪いが術を解くことは出来ない。しかるべき場所に移送が済むまでは彼に逃げられでもしたら困る」
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