第24章 “Long time no see.”
『序盤から飛ばしているぞ、クラウスゥーー!! 荒ぶるこの獣を鎮められるヤツは現れるのかァーー?!?』
煽る司会者にのせられて、次の対戦相手がリング上に飛び乗った。
リングはズゥンと目に見えて沈み、会場の空気が揺れる。
ビリビリと肌に走る対戦相手の気迫に気圧されそうになるアメリアの背を、K・Kが支えていた。
「大丈夫なんですか、クラウスさん。あんな相手と戦って……」
クラウスの前に立ちはだかる相手は、先ほどの相手よりも遥かに図体が大きかった。
体が大きいだけではなく、鋭い棘で体中覆われていて攻撃すれば逆に大怪我を負いそうな相手だ。
先ほどの試合ではクラウスは血を使って戦ってはいなかった。ここではどうやらそういった技を使うのは禁じられているようで、相手がどんな身体的特徴を持っていても、クラウスは人の身で、生身で戦わなければならない。
棘だらけの体など、固い外骨格を持たない“人間”であるクラウスにとっては不利もいいところだ。
相手の攻撃を避けるだけでは決着はつかない。しかし攻撃をすれば怪我を負ってしまう。
絶望的にしか見えないこの状況に、アメリアの心配をよそにK・Kは笑って答えた。
「安心して。クラっちなら大丈夫よ」
アメリアの心配をよそに、試合開始のゴングが鳴る。
「串刺しにしてやらぁ!!」
巨体に似合わず俊敏な動きで、相手はクラウスめがけて突っ込んできた。
クラウスは微動だにせず、相手を迎え撃つつもりのようだ。
串刺しになるクラウスの姿しか想像できず、アメリアは目をつぶった。
次の瞬間には何かが砕けるような鋭い音が響き、観客の歓声があがった。
おそるおそる目を開けると、リングには泡を吹いて倒れた対戦相手の姿と、無傷で勝利のポーズを決めているクラウスの姿があった。
周りには無残に折れた無数の棘らしきものが転がっている。
「ね、大丈夫だって言ったでしょ」
「え、ええ……」
クラウスの強さはなんとなく分かっていたつもりでいたアメリアだったが、その上をいくクラウスの戦いに驚くばかりだった。
その後も試合はクラウス優勢で進み、多少の怪我は負ったものの、クラウスが窮地に陥るような事態は起きなかった。
観客たちは次の試合を、と声高に叫ぶものの、なかなか次の対戦相手は姿を見せない。