第4章 邂逅
男性はじっと、私達を見ている。
赤毛の髪は、その人を獣のようにも見せていた。
斜めに流れる前髪の奥からギラリと光る目は、エメラルドグリーンの綺麗な色をしているのに、三白眼のためか鋭さを増して私達をねめつけているようにも見えた。
先ほどの異界人のバッタのような複眼も何を考えているのか読み取れず怖いと思ったけれど。
その巨躯のせいもあって、彼の射貫くようなまなざしに、若干恐怖を覚えてしまう。
「…お怪我はありませんか、レディ」
怖いと思ったはずなのに。
私達を見下ろすその大きな男性の声音は存外、優しさに溢れていた。
「え、ええ……」
こちらの心配をしているところをみると、きっとこの男性は私達を助けに来てくれたのだろう。
真っ赤な十字架を背負い、救いの手を差し伸べてくれたその男性の姿を、私は生涯忘れることはないと思う。
男性はゆっくりと、私と目線を同じくするようにしゃがみこんだ。
「御無事で何より。レディ、どうぞお手を」
差し出された手。
その体と同じように、とても立派な大きな手だった。
おそるおそる手を差し出すと、壊れ物を扱うようにそっと握られた。
そして私の体を軽く支えて、立ち上がらせてくれた。
立ち上がってみても、彼は私より随分と背が高く、目を合わせるのにも一苦労だった。
「助けていただいて感謝しています。ミスタ……」
「クラウス!」
男性のお名前をお聞きしようと思ったところで、男性の背後から鋭い声が飛んできた。
クラウス、と呼ばれた男性がハッとした表情で足元に目をやったので、私も同じように視線を下に落とした。
そこには、先ほど倒されたはずの異界人の頭が、カッと大きく口を開けて、ミスタ・クラウスの足に噛みつこうとしていた。
「!!」
動くはずのないものが動いた驚きと恐怖でいっぱいになり、私はまた思わず目をつぶってしまった。
「すまない、スティーブン」
「いや……」
ミスタ・クラウスとその仲間と思しき男性の会話が聞こえ、目をあける。
先ほど噛みつきかかった異界人の頭は、口を大きく開けた状態のまま、血で出来た氷の塊の中に閉じ込められていた。
このお二方は、何か魔法のような力をお持ちなのだろうか。