第4章 邂逅
クラウスは怯えたまま動けなくなっている子供達のそばへと駆け寄った。
ブチブチと何かがちぎれるような音がする。
見れば、氷に下半身を固められた異界人が、片腕の力だけで、己の上半身を下半身から引きちぎろうとしていた。
かたわらで怯えて震えている子供達にとっては、ゾッとする光景だっただろう。
異界人の目はハッキリと子供達を捉えている。
子供達を狙っているのは誰の目から見ても明らかだった。
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─アメリアside─
完全に逃げ遅れた。
突然暴れだしたバッタのような異界人。
氷の塊に体を拘束されたというのに、自分で自分の体を引きちぎって、拘束から逃れようとするなんて。
教会の外は地獄だと、牧師さまは仰っていたけれど。
今、目の前の光景を見れば、あの言葉は正しかったと思う。
あの教会だって、決して楽園ではなかったけれど。
教会と、外と。
一体どちらが私達のいるべき場所なのだろうか。
「う……うう……」
「大丈夫よ。きっと、神様がお守りくださるわ」
恐怖で動けなくなってしまった小さな子供を後ろ手にかばい、私は異界人と対峙していた。
ブチブチと体の繊維が千切れる音が次第に小さくなっていく。
それはもうすぐ上半身が氷の塊から飛び出してくることを意味している。
この子を抱えて逃げなければと思うのに、私の体も恐怖からか言うことをきかなかった。
異界人の目が、はっきりとこちらを向いている。
目の近くにある触覚が、ゆらゆらと動く。
ギチギチと口から奇妙な声がして、ゆっくりと異界人の口が開かれていった。
このまま食べられて死ぬのかもしれない。
私を食べている間に、後ろの子だけでも逃がしてあげられれば......
ブチリと下半身からちぎれた上半身が、ギチギチと歯を鳴らしながらこちらに飛び掛かってきた。
恐怖で思わず目をつぶる。
けれど一向に痛みは感じない。
何かぶつかる鈍い音がして、私の前に誰かが立っている気配がする。
おそるおそる目を開けると、紅殻色(べんがらいろ)の十字架のデザインの入った白地の革靴が見えた。
大きな足。
そこからゆっくりと視線を上げていく。
大きくて真っ赤な十字架を背にした巨躯の男性が、立っていた。