第24章 “Long time no see.”
「おそらくイアンは義眼の事を知らない。知っていればこんな大々的にビラを配ってクラウスを呼び出す真似はしないだろう。ここまで大っぴらにビラをまくって事は、僕らライブラの耳に入ることは分かっているはずだしね」
「三日後か…」
こちらの体制を整えるのには十分な時間がある。
だがそれはイアンの方も同じだろう。
わざわざ日付の指定までしているのだ、それなりに用意をしているはずだ。
そこまで考えてクラウスは口を開く。
「──では当日はレオナルドとスティーブンが組んで──」
「私も連れて行ってください!」
突然、事務所にアメリアの声が響いた。
いつから話を聞いていたのか。
驚くクラウス達にアメリアは駆け寄り、必死で訴えた。
「お願いです、私もそこへ連れて行ってください」
「アメリアそれは出来ない」
アメリアは必死に頼み込むものの、クラウスはすげなく拒否の姿勢を示した。
しかしアメリアは諦める気配がない。
「兄がそこに現れるなら、私も行きます。今度こそ、兄を…とめたいんです」
「気持ちは分かるが、許可出来ない。君の兄君が実際この場に姿を現すかどうか定かではないし、仮に現れたとしても君に万が一の事があるかもしれない。君の身に危険が及ぶ可能性がある以上、願いを聞き届けることは──」
「私の、家族なんです。兄を止められなかった私にも責があります。私にも手伝わせてください」
「…しかし……」
強いアメリアの眼差しに、クラウスはたじろいでしまった。
アメリアを守るために彼女の願いを拒否する事が本当に正しい事なのか、クラウスの中で揺らぎ始めていた。
けれど連れて行ってアメリアが怪我でもしたら──怪我で済まずにイアンに連れ去られでもしたら──?
クラウスはその想像にゾッと身がすくんだ。
──アメリアのいない日常など、考えたくもない──今の生活が未来永劫続くわけではないと理解しているクラウスだったが、アメリアが傍らにいないという想像をしただけで、胸が締め付けられて苦しくなった。
いつか来る別れの日。だがそれはまだ先の事だとクラウスは思いたかった。
アメリアの思わぬ強い意志に揺らぐクラウスを見て、そこへ援護射撃のように、K・Kが言葉を挟んだ。
「私が彼女を護るわ。同行を許可して、クラウス」