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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第24章 “Long time no see.”



「母との…いい思い出って私の中には無いんです。その記憶が本物かどうかすら分かりませんが…私はクローンじゃないかって話でしたし……私の中で確かな記憶があって家族と思えるのは、兄と教会で一緒だった子供たちだけで……」

ぽろぽろと涙がこぼれた。
自分でも知らないうちに泣いてしまっていた。
ずっと気づかないフリをしていた。
寂しくない、私は恵まれた環境にいる。だからこの気持ちに気づかないフリをして、考えないようにしていた。

会いたい。
兄さんに、他の子供達に。
どんな事があっても、私達は家族だから。

「…ごめ、なさい……暗い話を……」

せっかくK・Kさんが楽しく過ごせるように気を遣ってくれていたのに。そう思うのに涙は止まらなかった。
けれどK・Kさんはかぶりを振って優しく微笑んでくれている。

「いいのよ。気にせずなんでも話して。不思議だけどね、誰かに話すと少し楽になるものよ」
「……ありがとうございます」
「もうそんなにかたくならなくていいのに。…貴方がここに来た時、私言ったでしょ。誰かに寄りかかってうんと甘えていいんだって。一人で抱え込む必要なんてないんだから。ため込まずにどんどん吐き出しちゃいなさい」

優しいK・Kさんの言葉に、また涙がこぼれた。
K・Kさんは私が泣き止むまでずっと背中をさすってくれていた。

ひとしきり泣いて、私が落ち着いてきたところでK・Kさんは残りの爪にもマニキュアを塗っていってくれた。
真っ赤に染まっていく指先を眺めながら、この人なら私の疑問をぶつけても誤魔化さずに答えてくれそうな気がして、心の中で引っかかっていた事を尋ねてみた。

「…K・Kさんは、兄さんの事とか他の子供達の事何か聞いていませんか?」

クラウスさんもスティーブンさんも、捜査状況というのか、今兄たちの事がどうなっているのか詳しく話してくれない。
何か進展があればきっと教えてくれるとは思うけれど、この間の一件で、もしかしたらと思う気持ちもあった。
クラウスさんの言葉をさえぎるようにスティーブンさんが言った言葉が、やっぱりどこか引っかかる。

──たちの悪い風邪が流行っているらしくてね──

あの言葉は本当だったのだろうか。だったら何故あの時、クラウスさんの顔は何か言いたげだったんだろう。

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