第4章 邂逅
クラウスが思考の渦に沈みつつある時、突然近くで雄叫びが上がった。
それと同時に悲鳴も上がる。
何事かとクラウス達が声の上がった方を見ると、大きなバッタのような体をした異界人が暴れているのが見えた。
先ほど通り過ぎた店にいたポリスーツが慌てて駆け寄っていったものの、異界人が腕を一振りしただけで吹っ飛ばされてしまった。
「行こう、スティーブン」
「ああ」
車から降りると、クラウスとスティーブンは暴れる異界人の元へと駆け出した。
かろうじて場にとどまっていたポリスーツが異界人に向けて攻撃をしかける。
大量の弾丸が雨あられのように降り注ぐ。
異界人は素手でそれを振り落とそうとしてブンブンと腕を振り回した。
あらかたの弾丸を叩き落としてはいたが、多少体に当たったのか、細かな血しぶきが飛ぶ。
追い打ちをかけるように、ポリスーツがさらに大型の武器を放つと、異界人の片側の腕がぶらりと垂れ下がった。
かろうじて体とくっついているだけで、今にもちぎれそうな状態だ。
しかし、異界人は攻撃をやめる気配がない。
むしろますます力をみなぎらせたかのように、大きな雄叫びをあげた。
「薬か?」
「かもな」
異界人の目は真っ赤に染まり、体中の血管が浮き上がっている。
雄叫びもそうだが、なんだかよく分からない言葉を発しており、『発狂』という言葉がしっくりくるような状態だった。
──早く事態を収めなければ。
クラウスは瞬時に己の取るべき行動を脳内で取捨選択する。
スティーブンにとってもクラウスにとっても、この異界人を倒す事は造作無い事であったが、できるだけ周囲に被害を与えないようにしなければならない。
先ほどの警察の発砲によって周囲にいた人間も巻き込まれている。
がれきの下敷きになったまま動かない人影や、近くで怯えたまま動けないでいる子供達を確認したクラウスとスティーブンは、声を掛け合うことなく、各々が取るべき最善の行動へと移った。
「エスメラルダ式血凍道……アヴィオンデルセロアブソルート(絶対零度の地平)」
スティーブンがそう口にすると、彼の足元から異界人へ向かって氷の道が出来、瞬く間に異界人の体へとまとわりつき、体を拘束した。
氷の中に下半身を閉じ込められた異界人は、それでもなんとか脱出しようと激しく暴れている。