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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第23章 You raise me up.



時折ふわりと広がる白いワンピースの裾に、優雅に舞う鳥と、アメリアの歌声。
そのどれもがこの混沌とした世界のものとは思えないほど美しく輝いて見える。

まるでアメリアのいる場所だけ天からの光が差しているような、そんな錯覚をクラウス達は覚えた。

歌の合間にアメリアとクラウスの目が合う。
アメリアの口が“you”を象る度に、その瞳に映るクラウスの心は大きく揺さぶられる。
“あなたがいてくれるから、私は強くあれる”
その“あなた”は、アメリアの瞳に映るクラウスなのだと、そう彼女が暗に気持ちをこめて歌っているように、クラウスには聞こえていた。

それはクラウスの願望だったかもしれない。
彼女が自分だけに、その想いを寄せてくれたらと願うクラウスの希望がそう錯覚させたのかもしれない。

曲が終わると、優雅に舞っていた鳥はそうっとアメリアに寄り添うようにして彼女の手の中に戻った。

クラウスは思わずソファから立ち上がり、惜しみない拍手を送った。スティーブンもそれにならい、同じように拍手を送っていた。

「素晴らしいものをありがとう、アメリア、そしてツェッド」

アメリアもツェッドも少し恥ずかしそうにしながら、クラウス達の賛辞を受けていた。

「すごいですよね、二人とも。これ絶対成功するよ」
「成功?」

レオナルドの言葉に、クラウスが首をかしげるとアメリアが「あの」と口を挟んだ。

「あ、の…クラウスさん。今のものを、ツェッドさんと公園で披露したいんです」
「公園で? 何故」
「私、その、お金を稼ぎたくて……生活費とか医療費とか、賄いきれないでしょうけど、少しでも」
「その必要はない」
「ですが」
「必要はないと言っている」

クラウスの声音は低く呻いているようにも聞こえる。
アメリアの願いを受け入れる気はないという断固とした意志が見て取れるクラウスの表情に、アメリアはしゅんと小さく項垂れてしまった。

「面白い試みだと僕は思うけど?」
「スティーブン…何を言っているのかね」

正気なのか、と驚いた顔で見てくるクラウスにスティーブンは笑みを見せた。

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