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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第23章 You raise me up.



いつもと比べてピリピリとしたクラウスの言動に、場にいたレオナルドはここに来るまでに何かあったのだろうかと、そっとスティーブンの様子を確認した。
スティーブンはクラウスほど張りつめたものは感じられず、むしろ困ったような呆れたような、そんな顔をしていた。

「まぁまぁクラウス。そんなに怖い顔するなよ。少年まで怯えてしまってるじゃないか」
「む……すまない」

突然自分の方に話を向けられたことにレオナルドは驚き、首を振るだけで精一杯だった。

「それで? クラウスからの連絡に気が付かないほど、どんな話で盛り上がっていたんだい?」

スティーブンからこんな風に話を差し向けられるのは珍しかった。普段レオナルド達が何をしていようが、あまり興味なさそうにしている。興味が無いというか、他に集中しなければならない事が多いからかもしれないが。

珍しいこともあるものだと思いながらも、妙にピリピリとした雰囲気を変えようとレオナルドは先ほどのツェッドとアメリアの共演の事を話すことにした。

「…口で説明するのもアレなんで、まぁちょっと見てください」

言ってレオナルドはクラウスとスティーブンをソファに座るよう促し、二人は言われるがまま腰を下ろした。

レオナルドの目くばせにツェッドとアメリアは軽く頷く。
スマホからバイオリンの静かな旋律が流れ始め、しばらくしてピアノの音色が聞こえ始めると、アメリアがすぅっと息を吸って歌い始めた。

アメリアの手には白い大きな鳥の形をしたものが乗せられていて、アメリアはその鳥を見つめながら静かにだが芯のある歌声を響かせる。

その場にいたアメリア以外の者は、肌をざわつかせるような、心の中に直接触れられたような、妙な感覚をうけていた。けれどそれは決して嫌なものではない。
なんとも言い表せない感覚に、みな一様にアメリアに視線をむけるばかりだ。

間奏を挟んで、メインのフレーズをアメリアが歌いだした時、それまで彼女の手におさまっていた鳥がふわりと宙を舞い始めた。
長い尾をたなびかせながら、アメリアの周囲を舞い踊る。
くるくると円を描いて空に昇っていく鳥に合わせて、アメリアもゆっくりと細い手を上げる。
彼女の指先が向きを変えて下へ向かうと今度はそれを追うように鳥が動く。
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