第23章 You raise me up.
「あと、聴いてて思ったんだけど……この曲、ツェッドさんのパフォーマンスとすごく合いそうな気がするな」
「なるほど。音楽に合わせて芸を披露するのは、いいアイディアですね。……どうでしょうアメリアさん。一度僕の演技と合わせてみませんか?」
ツェッドさんの先ほどの優雅に舞う鳥の演技と、私の歌を合わせる。
考えてもみなかったけれど、互いに得意とするものを組み合わせるのは面白そうだ。
「待って待って、俺スマホでその曲探してみる。歌無しの曲だけってのも、ネットに上がってると思うから」
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事務所へ通じる秘密の出入り口に向かうクラウスの足は、知らず知らずのうちに早足になっていた。
携帯にメッセージを送ったものの、アメリアからの返信が無い。
共にいたスティーブンは「単に気が付いてないだけじゃないのか」と言うがいつもならすぐに返信があるだけに、クラウスは気が気ではなかった。
気になって電話をかけてみたものの、出ない。
(今の時間はツェッドが事務所で待機をしていたはずだが──)
そう思いツェッドに連絡をとってみるものの、こちらも反応が無い。
万が一事務所のセキュリティが破られ、アメリアの身に何かあったとしたら──
焦るクラウスの耳にはスティーブンの言葉は届かず、ただ事務所へと急いだ。
急くように開けた扉は大きな音を立て、事務所に居た者達の視線を一斉に集めた。
「お帰りなさい、クラウスさん」
微笑むアメリアの姿にホッと胸をなでおろしたのも束の間、クラウスはつかつかと革靴を鳴らしながらアメリアの元に歩み寄った。
「アメリア、先ほど連絡をしたのだが」
「そうだったんですか? ごめんなさい、ツェッドさん達とお話していて気が付かなくって」
きょとんとした顔で答えるアメリアに、クラウスはわずかだが苛立ちを覚えていた。
「君にも連絡を入れたのだが、ツェッド」
「! すみません、携帯を手元に置いていなくて」
「…今回は何も無かったから良かったものの、有事の際に連絡が取れないのでは困る。次から気を付けたまえ」
「はい。申し訳ありませんでした」