第23章 You raise me up.
自分で言っててへこんでしまう。
私には本当に何もない。
あるとすれば、男性を悦ばせる技術くらい。
だけど今はそんなものを持っていてもどうしようもない。
私が下を向いてしまったのもあって、気まずい空気が流れてしまう。
すると突然、ツェッドさんが何かを思いついたように「あ」と言葉を発した。
「あるじゃないですか、得意なこと」
「私に?」
「ええ。歌ですよ」
「歌……」
「以前アメリアさんの歌声を聞いたことがありますが、とても素晴らしかった。あの歌声なら、お金を払ってでも聞きたい人たくさんいると思いますよ」
歌うのは好きだ。
教会にいた時もみんなに歌をせがまれることもあった。
けれど、ツェッドさんの言うようにお金をもらえるほどでは無いと思う。
「へぇ…そんなに上手なら聞いてみたいな、俺」
「何か歌ってもらえませんか?アメリアさん」
レオナルドさんとツェッドさんにそう言われて断る理由もなく、アカペラでどこまで歌えるか分からなかったけれど”you raise me up”を歌うことにした。
目を閉じて歌いだすと、自分の声が事務所の中で大きく響いていくのを感じた。
大きな声で歌うのは久しぶりで、まだあまり喉がひらかない。
それでもサビの部分までなんとか歌う。
教会ではこの曲のタイトルにもなっているフレーズのところは、他の子供達も一緒になって合唱していた。
今は私一人の声しか聞こえない。
寂しく思うものの、私一人の声でもあの響きを届けられたら、とお腹に力をこめて精一杯歌った。
歌い終えてレオナルドさんとツェッドさんの顔を見ると、二人ともほうけたような顔をしてこちらを見ている。
「あ、の……どう、でした?」
感想を催促するのもおこがましいけれど、あまりにも何の反応も無かったので、不安になって尋ねてしまった。
「なんて言っていいのか……俺には表現しきれないんだけど…声が綺麗なのもあるけど、それだけじゃなくって……」
「聴いていて心が洗われるような歌声ですね」
「ああ、そう、それ! 曲の雰囲気もあるだろうけど、自分が真っ白になる感じがする。ツェッドさんの言うように、これはお金出してでも聞きたい人大勢いると思う」
「ありがとう、ございます……」
自分で聞いておきながら、褒められると恥ずかしい。