第23章 You raise me up.
幸いコナー先生の治療のおかげか、水分なら儀式なしで口に出来るようになっていたからクラウスさんが始終そばについていなくてもなんとかなる。
…精神的には、なんとかなっていないのだけれど。
落ち着かなくてクラウスさんからもらった携帯を幾度となく覗き込んでしまう。
クラウスさんはいつでも連絡をしていいなんて言ってくれたけれど、急を要する事がない限りこちらから連絡を入れるのは気が引ける。
時折クラウスさんが様子を尋ねるメッセージを送ってくれるから、それに短い返事を送ることはある。
あとはそのメッセージを何度も見返すばかり。
クラウスさんに頼まれた刺繍をすすめてはいるものの、ずっと部屋にこもるのもしんどい。
何よりみんなに「好きなことをして過ごして」と言われるのが辛かった。
ライブラの人達は世界を救うために、また私達の事件を解決するために日夜走り回っているというのに、当事者の私はのんびり遊んで暮らしているなんて気が引けて仕方ない。
かといってライブラのお仕事を手伝えるはずもなく…出来ることを探して事務所の掃除をかってでてみたものの、ほとんどギルベルトさんが完璧にこなしてしまわれるし、クラウスさんの温室にあるたくさんの植物のお世話も、クラウスさん本人がこれまた完璧にこなしてしまう。
教会にいた頃のように体を売らなくてよいのは嬉しい。
けれど、だからといって何も有益なものを生み出せないまま日々を無為に過ごすのは精神的にとても辛かった。
「…ダメね。一人でいるとますます病んでしまいそう」
クラウスさんが不在でも、事務所にはライブラの誰かしらが滞在している。
ツェッドさんなんかは事務所の一室に住んでいるから、時折話し相手になってもらっていた。
そっと事務所へ顔を出すと、ツェッドさんとレオナルドさんの姿があった。
ツェッドさんは手にした大きな白い鳥の形をしたものをレオナルドさんに見せ、何事か相談しているようだった。
「…あの、私もお話に混ぜてもらってもいいですか?」
「ええ、どうぞ。そうだアメリアさんもちょっと見てもらっていいですか。感想を聞かせてもらいたいんです」
言ってツェッドさんは手にした大きな鳥を模した紙を宙に放った。
重力に導かれて床に落下しかけた鳥は、次の瞬間にはふわりと宙を舞い始めた。
「綺麗……」
思わず口からそんな言葉が漏れた。