第23章 You raise me up.
(こちら側に…警察内部か、僕達ライブラの内部に敵に通じている者がいる……)
そこまで考えが行きつくと、スティーブンの中にずっと渦巻いていた疑念がふつふつと湧き上がってくるのであった。
(──やはり、か。)
スティーブンの頭に浮かぶ顔は、ひとつ。
アメリアの顔だった。
よくある話だ。被害者と思われていた人物が実は犯人の協力者だったなんてことは。
だがアメリアが内通者かどうか、いまだ推測の域を出ない。
確たる証拠を見つけなければ、いくらスティーブンが疑ったところでアメリアは認めないだろう。
(証拠か......)
もっと早くに手を打つべきだったと、スティーブンは後悔していた。
今更しのごの言っても仕方がない。
スティーブンは後部座席のクラウスを振り返る。
「クラウス、ひとつ提案があるんだが」
「何かね」
「少女に通信装置を渡しておかないか。今回の件のように、黒幕が彼女に接触をはかってくる可能性がある。考えたくはないが、事務所の警備システムを破られる可能性もゼロじゃあない。
なんせ相手の能力も数もまだ分からないからね。
万が一彼女に何かあった時、連絡を取れるようにしておいたほうがいいと思うんだ」
「うむ、確かに」
「それに──」
何年も共に死戦を潜り抜けてきたクラウスのツボを、スティーブンは心得ていた。
ダメ押しのようにスティーブンは言葉を重ねた。
「君も、彼女のそばを離れる時少しは落ち着けるだろ?」
「......う、む......」
「僕も、君と外出する度ソワソワされたんじゃあ落ち着かないからね」
スティーブンがカラッと笑ってみせると、クラウスは恥ずかしそうに俯いた。
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「…ハンカチ、受け取ってくれたかなぁみんな……」
今日も自室で一人、ハンナ達のことを考えながら過ごしていた。
クラウスさんにハンカチを預けたものの、彼からは施設にいるみんなに手渡したとの報告はなく、かといってこちらから確認するのも気が引けて一人モヤモヤを抱えたままでいる。
最近はクラウスさんも忙しいようで、事務所にいる時間がめっきり減ってしまった。
兄さんの事や教会の事だけでなくて、他にも解決せねばならない事が多々あるらしく、食事の時と私が眠る前だけクラウスさんは顔を見せる。