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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第23章 You raise me up.



それでも僅かな可能性を見つけなければと、スティーブンは手元の資料を何度も読み返した。

「…元々ホームレスだったのか、この男」
「ああ。ホームレス仲間に聞いた話じゃ、数年前に仕事の誘いを受けてどこかへ行ったそうだ」
「その仕事を持ちかけてきたやつについては?」
「調べたが、もう何年も前の話だ。その時の事を詳しく覚えてるやつはいなかったよ」
「監視カメラの映像も保管期限は過ぎているか……」

手繰り寄せた糸はまたプツリと切れてしまう。
事の運び方に杜撰さも垣間見えるものの、肝心のところで今一歩届かない。

「わざと証拠を残しているのかもしれないな、相手は」

スティーブンの言葉に、ダニエルの眉間の皺がまたひとつ増える。

「俺達を挑発してんのか」
「自分達に自信があるように思える。最初に起きた教会の殺人事件だってそうだ。現場を調べれば、売春クラブの事が判明すると分かりそうなもんだ。だが警察がくるまで時間があったにも関わらず牧師らの死体を残したまま、クラブ運営の証拠となる帳簿も残したままだ」
「それだけ証拠をちらつかせても捕まらない自信があるってことか」
「おそらく。自分達には辿り着かないと思っているんだろう。そうじゃなければよほどの馬鹿か」
「舐められたもんだぜ、警察も……」

空になったタバコの空き箱を握りつぶし、ダニエルは息を吐いた。

「よほどの馬鹿の可能性に賭けたいもんだが」
「僕もそれは同意するよ」
「ハッ。冗談言えるくらいなら、お互いまだ諦める気はなさそうだな」
「当たり前だろう。必ず追い詰めてみせるさ。どこの誰であろうと、必ずな」

ダニエルと別れ事務所へ戻る道すがら、ギルベルトの運転する車の中でスティーブンは一人気がかりを抱えていた。
だがその気がかりをクラウスに伝えることはしなかった。
たとえ口にしたところで、クラウスが良い顔をするとは思えなかったからだ。

(バンの事故が仕組まれたものとして──いやもっとその前から、あの元ホームレスの男が運転手になった時から敵はこちらの動きを知っていた事になる……)

敵はどこからこちらの情報を得ているのか、それが大きな問題であり、それが分かれば一気に黒幕へとたどり着ける可能性が出てくる。

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