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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第23章 You raise me up.



「運転手の死体があるだけで、子供達の姿は無かった」
「目撃者は」
「事故の一部始終を見ていたのは何人かいたが、誰も子供なんか見てねぇとよ。監視カメラの映像も確認したが、何も映っていなかった」
「その事故の前に子供達をどこかにやった可能性は?」
「その可能性が高いと俺らも踏んでる。だから病院から事故現場まで街中の監視カメラを調べみたんだが…バンに怪しい動きは見られなかった。だけどな──」

ダニエルは懐から封筒を取り出してクラウスに手渡した。
封筒の中身をすぐさま確認したクラウスとスティーブンは顔を見合わせる。
封筒から取り出した紙には、ある男についての詳細が書かれていた。

「この男……」

クラウスが呟くと、スティーブンも頷いて応えた。

「ああ。あの子の──アメリアの父親に面会に来ていた男とソックリだ……だけど、あの時見たバンの運転手の顔は──」

クラウス達が見た、運転手の男。
黒いキャップを被った人のよさそうな笑みを浮かべていた男は、警部補に手渡された資料に載っている男の顔とは別人だった。

「遺体を検分した時に分かったんだが、そいつは“フェイク・フェイス”をつけていた。要は顔の皮を被って別人に成りすましてたって事さ」
「と言う事はつまり、この事故は教会関係者が仕組んだ可能性が高いってことか」
「おそらく。その運転手の男は消されたんだろう」
「子供達を取り返したかったのか。 よほど重要な“Eden's children(子供たち)”とみえる」
「いまもどこかで俺達を欺いて笑っていやがる。胸糞悪いったらありゃしねぇ。これだけ繋がりそうな証拠が残ってるってのに、何故こうも黒幕までたどり着けないのか解せん」

咥えていたタバコを苦々し気に踏みつぶし、姿の見えない敵に対しての苛立ちを隠そうとしないダニエルと、クラウス達も気持ちを同じくしていた。

うっすらと見えた手掛かりの糸を何度手繰り寄せても、いつも肝心なところで糸は切れてしまっている。
今回の事故に関してもそうだ。
運転手の男から、なにがしかの情報が得られそうな状況だというのに、当の本人は死んでしまっていて口も聞けない。
死体をそのまま残しているところからみれば、男の素性をさらったところでめぼしいヒントは見つけられないだろう。

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