第23章 You raise me up.
会話が終わるまで待っておこうと思っていたけれど、気配に気づいたのかクラウスさんがパーテーションから顔を出した。
「待たせてすまない、アメリア。昼食をとるとしよう」
「お話が終わってからで大丈夫です。お邪魔してしまってごめんなさい」
「いいよ気にしなくて、ちょうどいま終わったところだから」
クラウスさんの後ろからスティーブンさんの顔がのぞいた。
瞬間、心臓がドキリとする。
この人にはいまだ慣れない。別に怒った顔をしているわけでもないのに、怖いと感じてしまう。
最初会った時に凍らされたからだろうか。まだどこかで恐怖心が拭えないでいるのかもしれない。
「おや、そのハンカチは」
クラウスさんの視線が私の手元に落ちる。
スティーブンさんの雰囲気に気圧されていたけれど、お願いするには絶好のタイミングだった。
「あ…あの、クラウスさん。お願いがあるのですが……ハンナ達に会いたいんです。あの子達のいる施設に連れて行ってもらえませんか?お時間のある時で構いません」
そう口にした瞬間、クラウスさんの表情が若干曇ったように見えた。
理由は分からないけれど、これはまたダメそうな感じだ。
でも何故?
以前ハンナ達にいつ会えるかと尋ねた時、子供達が落ち着いてからとクラウスさんは言っていた。
もうあれから数週間経つというのに、いまだ許可が下りないものなのだろうか。
それほどまでにみんなの心が不安定になっているということなのだろうか。
たしかに私もまだ精神的に不安定な状態が続いているけれど……一目会う事も叶わないなんて。
「──アメリア、その事なのだが──」
「施設でたちの悪い風邪が流行っているらしくてね」
クラウスさんの言葉を遮るようにスティーブンさんが施設に行けない理由を話し始めた。
「あの子達は感染していないが、訪問者に感染を広めてしまう恐れがあるからね。今は面会禁止措置がとられているのさ」
「そう、ですか……」
「早く会いたいだろうけど。もう少し我慢してもらえるかい」
薄く微笑むスティーブンさんの言葉は、事実かどうか分からない。私がこの人を苦手に思っているからか、どちらかといえば嘘なのではと思う気持ちの方が強くある。
けれどたとえスティーブンさんの言葉が嘘であったとしても、私にはイエスと答える選択肢しかなかった。