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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第22章 少女の影を探して



馬鹿らしい、意味の無い事をするものだと一笑に付したイアンとは正反対にライブラの、クラウスの行動を褒めたたえていたアメリア。
アメリアを置いてダイナーから逃げ出して、もう3週間近く経とうとしている。
この世界に復讐を──そう願うイアンだったが、同時にアメリアの身も案じていた。

世界が滅んでも一向に構わない。
けれどそれはアメリアの身の安全が確保出来てからだ。

アメリアは十中八九クラウスの近くに囚われているはずだ。
妹は復讐なんか望んじゃいなかった。
だからたとえ奴等や警察が尋問したとしても、刑務所に入れられたり、裁かれたりはしないだろう。

妹を取り戻すためにも、世の中に復讐を果たすためにも、クラウスの存在は目障りだ。
一刻も早くクラウスに、ライブラに近づかなくては。
イアンの頭の中はその思いでいっぱいだった。

「…クラウス・V・ラインヘルツ…そいつをどうしてぇのか知らねぇが、お前じゃ秒も持たねぇぞ」
「そんな事は分かってる。だから情報を知りたいんじゃないか」

フンと鼻をならすと、イアンの真向かいに座る男が渋い顔で口を開いた。

「そいつは、バケモンだ。人間だが人間じゃねぇ。自分よりデケェやつでも簡単に吹っ飛ばしちまう。力じゃまず勝てねぇ」
「何かないのか、弱点は」

もったいぶって話す男に、イアンは苛立ちを隠さなかった。

「まぁ聞けって。ソイツはな、自分の“血”を使って戦う。血液を自由に操って武器にまでしちまう」
「それくらいは知ってる」
「唯一弱点を突くつったら、その“血”くらいだな」
「……大量に失血させる、ってことか」
「ああ。ヤツだって不死身じゃねぇだろ。頑強な体をしてるが普通の人間と同じはずだ。血を流しすぎれば死ぬ。だがヤツが死ぬくらい血を使う事はおそらくない」

男は力強く言い切った。
イアンは眉根を寄せて男を睨む。

「何故」
「そこまでクラウスと互角に戦えるヤツがいねぇからさ。大抵ワンパンでのされちまう」

男の答えは至極あっさりとしたものだった。
クラウスの戦う姿をそう何度も見たわけではないイアンでも、それはなんとなく想像できた話だった。



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