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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第22章 少女の影を探して



*************

─HL内、某酒場─

「おし! イチあがりぃ!!」

酒場の一角で、威勢のいい声が上がった。
同じテーブルを囲む者は、その声の主をじっとりとした目で見つめている。
彼が1抜けするのはもう何度目だろう。
共にカードに興じていたうちの1人が、訝し気にカードの表裏を観察し始めた。

「またお前勝ち抜けかよ。イカサマとかしてねぇだろうな?」
「バカ言え、この術式付与されたカードがいくらしたと思ってるんだ。イカサマでもしようもんなら術式が反応して即、頭が吹っ飛ぶんだぜ」

使いこまれた木製のテーブルの上に、男達が持っていた残りのカードがばら撒かれる。
照明の少ないこの酒場では、うっすらと赤く光るカードの絵柄がいやに目につく。
カードの中で浮かれたように躍り狂う異形のイラストを横目に、イアンは1枚のカードを同じテーブルを囲む者に見せた。

「俺が勝ったら情報をくれるって約束だったよな。情報通のあんたらなら、コイツの事詳しく知ってんだろ」

差し出されたカードをひと目見るなり、それまでほろ酔いでカードに興じていた者達の顔色が青くなった。

「......ライブラか」
「そう、そのグループのリーダーの“クラウス・V・ラインヘルツ”について知りたい」
「いいのか?知ればお前もタダじゃ済まなくなるかもしれねーぞ」
「元より覚悟してるさ」

ニヤリと笑みを浮かべるイアンに、男達は互いに顔を見合わせた。

──ライブラについては詳しく知る者は皆無だった。
神出鬼没、快刀乱麻、難攻不落。

ライブラにまつわるそう言った言葉はよく耳にした。
けれどその詳細な実態を知る者にイアンは出会えなかった。

聞けば“ライブラ”とはこの街がニューヨークからヘルサレムズ・ロットに変わった時に出来た組織だという。
活動理念は『世界の均衡を保つ』こと。

それを知った時、なんともバカげた理念だとイアンは思ったものだった。

警察でもない、何か報酬があるわけでもない。
ただ『世界』の為、ひいては『他人』の為にその身を賭して日々活動する。

──『素晴らしい方達だったわね。率先して人々を助けるなんて』
『危険を顧みず、見ず知らずの人の命を救うのよ?』──

妹の、アメリアの言葉をイアンは思い出していた。


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