第22章 少女の影を探して
「頭数がいりゃいいって話か?」
「どうだろうな。そう単純にはいかねぇと思うが。クラウスがいれば他のライブラ連中もやってくるしな」
「クラウスだけを土俵に上げる方法か……」
呟いてイアンはそのまま一人思案顔のまま沈黙してしまった。
男達もそれ以上有用な情報を持っていないのか、イアンに何か話すそぶりを見せなかった。イアンとの会話が途切れたところで、男の一人が思い出したように口を開いた。
「…そういや、前にオズマルドんとこで試合やってたよな」
「ああ! あれ痺れたよなぁ~!! 目障りなヤツだけどあの戦いっぷりは称賛に値するぜ」
「またやんねぇかなぁ」
「いやぁ無理だろ、あんなビックマッチ組むの。オズマルドだってもう死んじまってんだしよ」
「賭けとかどうでもいいからまた見てぇなぁ」
男達の会話に、イアンは身を乗り出した。
「なんだ、それ。詳しく教えてくれよ」
「地下にな、闘技場があったのさ。そこでは毎夜、強者が集まって試合をやるんだよ。どっちが勝つか賭けて遊ぶんだが、ある日突然クラウスがリングに上がった事があってな。それまでチャンピオンだったやつぶっ飛ばすわ、そこ仕切ってた支配人の顔殴り潰すわ、そりゃまぁ凄かったんだ」
「へぇ…それでクラウスがチャンピオンになったのか」
「あ!」
イアンの隣に座る男が突然大声をあげ、顔をしかめてイアンは隣の男を睨みつけた。
「思い出した、アイツ、アイツだよ! アイツには勝てなかったじゃねーか!!」
興奮気味に唾を飛ばしながら隣の男はドンドンとテーブルを叩く。
男のイアンを見つめる目は輝いていた。
「誰のことだ?」
冷静にイアンが聞くと、男は激しくイアンの肩を揺さぶってきた。
「オズマルドの体を乗っ取ってたヤツだよ!! 全身真っ赤で血液の塊みたいなヤツ!」
「…そいつはどこにいる?」
「さぁ……知らねぇ」
先ほどまでの興奮はどこへやら、男の返答はつれないものだった。
しかしどうやら男達はイアンに隠し事をしている様子はなく、本当にその“血液の塊”について知っている事はなさそうだった。
正体も行方も知れないものを追うのは得策ではない、とイアンは結論づけていた。
もうあまり時間をかけていられないのだ。
一刻も早く、妹を奪還しなければ。
「なぁ。あんたらに頼みたい事があるんだが」
男達はイアンの話を黙って聞いていた。