第22章 少女の影を探して
ソニックの小さな体が汚れた路地裏をかけていく。
「あ、おい、ソニック」
ソニックは足が速い。
『音速猿』という名が示す通り、音速で駆け回ることが出来る。
しかしそれは種として生き残る為に特化した能力であり、逆を言えば彼ら音速猿はこの街で生きていくにはあまりにも脆弱な体をしているのだ。
衝撃を受ければ彼らの脆い骨は簡単に折れてしまう。
「待て、そっちは赤文字の──」
ソニックが駆けて行った方向は、今日は特に生還率の低いとされる『赤文字』の地区だった。
HLでは、その地区における“生還率”が天気予報と同じように毎日発表されている。
レオナルドのようなごく普通の、戦いに向かない一般市民にとって、生還率の情報は生活するうえでチェックが欠かせないものだ。
生還率が特に低い地域は赤い文字で表記がなされることから、そういった危険な地域は『赤文字』と呼ばれている。
知能が高く逃げ足の速い音速猿とはいえ、赤文字の地域に入り込んでしまっては無事でいられる確率はグンと低くなる。
ましてやあの小さな体では、戦いなど到底出来るはずもない。
自身に力が無い事は十分承知したうえで、レオナルドはザップの手から逃れてソニックの後を追った。
「レオ、お前まで死ぬ気か」
なんだかんだと面倒見のいいザップもレオの後を追う。
──半分は、レオに何かあったらスティーブンに半殺しにされるのが嫌、という動機であった。
「ソニック、早くここから離れるぞ」
小さな薄灰色の体は、路地裏の真ん中あたりにちょこんとあった。
フンフンとあたりの匂いをかいでは、地面に鼻を近づけている。
「どうしたソニック。何かあるのか?」
レオナルドはかかんでソニックが気にしている地面に目を凝らした。
けれどそこにはただ薄汚れた地面が広がっているだけで、何かが落ちている様子もない。
けれどソニックは何かを訴えるように、レオの服の袖を引っ張った。
見えない何か。
それを見るには、方法は一つしかなかった。
周囲を見渡し人目の無い事を確認して、レオは首元のゴーグルをかけて目を開いた。
ソニックのいるあたりに、ぼんやりとオーラの痕跡が見える。
誰かがここにいた印だ。
路地裏とはいえ、人(あるいは異界人)の出入りがあってもおかしくはない。
「…あれ、これって……」